『35tの贈り物』

 

「さあ、今日も一日がんばろう♪」

 

 愛機であるストライクパンサーを今日もピカピカに磨き上げている者がいた。

 その名はシーナ・レイヤード。

 つい最近まで約3年間「一般兵A」とか言われていたのは公然の秘密である。

 現在は長年行動を共にしていた防衛軍総司令の直衛任務についている。

 その際、この名前じゃ格好がつかないだろうと名前を拝領したのだ。

 古参の部類でストライクパンサーに乗り続けている一人である。

 

「お、今日もピカピカだな。」

 

 そんな彼女を見つけて声をかけた奇特な方がここに一人いる。

 

「あ、司令!おはようございます。」

 

 奇特な奴とは文字通りこの部隊で一番偉い人だ。

 毎日毎日飽きもせずに磨きまくるシーナとも付き合いは長い。

 

「毎日磨いていて飽きたりしないのか?」

 

 いつも新品同様の光沢を放つ事で有名な彼女のストライクパンサー。

数ある同型機でも一発で見分けがつく異様な存在になりつつある。

 

「飽きませんよ?たとえ借り物でも一応私の愛機ですもん。」

 

 実は彼女の機体は自前ではなく、部隊からの貸し出している物である。

 元々失機者だった彼女を拾い上げたのが物好きな彼だったわけで・・・。

 世間一般からすれば、メックを身内以外に貸し出すなど言語道断なのだが、

この人はシーナに気前良くメックを貸し与えているのである。

 彼女はこの点だけでも彼に多大な恩義を感じているのである。

 

「ふむ、そうか、そんなにそれが好きか・・・。」

 

 愛機に愛着がある彼女の姿を見て何か思ったことがあるらしい。

 口に手を当てて少し考え込んでいる。

 

「?」

 

 訳が解らずハテナマークが頭に点灯しつつある彼女。

 

「あ、いや、こっちの事だから気にしないでくれ。」

 

 彼女にさらりと笑いながら誤魔化しながら去っていく彼。

 シーナはそれをただポカンと見送るしかできなかった。

 

 数日後、シーナは誕生日を迎えて晴れて二十歳となった。

 仲間内のドンちゃん騒ぎもお開きとなり、自室に戻って寝転んでいたシーナ。

 そういえば司令夫婦に渡された一つの箱の存在をふと思い出した。

 やたらに頑丈な箱で、数あるプレゼントでも異様な存在だった。

 

「中に何が入っているのだろう?」

 

 興味本位開けてみるとソコには紙切れ二枚が入っていた。

 

「?」

 

 頑丈な箱に紙切れ二枚だけ入れておくだけとはどういう事なのだろう?

 とりあえず入っていた紙切れの文面を読んでみる事にした。

 

『誕生日おめでとう。祝いの品としてストライク進呈。』

 

 そして、二枚目の紙切れはストライクパンサーの所有権利譲渡証書であった。

 

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

 この日から借り物の愛機は、名実ともに彼女だけの愛機となったのである。

 物凄く嬉しい筈なのだが、頭の方が現実についていけず思考回路が停止した。

 この現実に実感が伴うまで、彼女には今少しの時間が必要であったようだ。

 

余談ではあるが、その夜はシーナの思考は完全に停止したマンマだったらしい。

 

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