「なんとも微妙な集合体」
「で、新部隊用に調達できた機体がコレですか・・・。」
不満顔でそっぽを向いているのは久遠の副官の華月鳳花である。
「仕方ないだろう、使えるような機体は全部最前線送りの現状だ。」
目の前に並んでいる機体とは如何程の物か簡単に説明しよう。
デマを信じた正規軍が使いたがらない嫌われ者の「BJ−1 ブラックジャック」
被弾、即撃墜の恐怖が常につきまとう「SDH−2D シャドウホークD型」
冷遇されている部隊への支給品「DV−6M デルヴィッシュ」
虚弱体質ゆえに遮蔽地形に引き篭る「JM−6S ジャガーメック」
究極の器用貧乏「QKD−4G クイックドロウ」
弾が切れる頃には沈んでいる「TBT−5N トレブチェット」
鈍足で無い遥か昔は凄かった「LNC25−02 ランスロット」
苦笑しているのは久遠防人、これらを調達してきた張本人だ。
瑠璃が回した機体が、どれもこれも宣言どおりに二線級ばかりだった事に彼女は不満を現していた。
「俺のボレアリス、お前のヘルメスV、遥のピョンピョン丸だけじゃ数が足らん。」
毎度毎度、貧乏くじを引かされる面子の機体だけでは量が不足。
「そうは言いますが、乗り手と機体が二線級では足手まといが増えるだけではないのですか?」
彼女の主張は最もだが、二流だろうが何だろうが猫の手も借りたい状況だ。
「使えないのなら使えるようにするまでだろう。」
乗り手の質の面は、訓練次第である程度までは何とかなる事は経験済みだ。
部隊内では基礎訓練すらすっ飛ばして、いきなり実戦と言うような経験者も多く居る。
「この限られた予算内で、これらが使えるようになるかどうか非常に怪しいものです。」
予想通り、彼女も乗り手よりも機体の質の方が問題だと指摘してきた。
当面の問題は、これらの機体を使える物に出来るかどうかにかかっている。
しかも、予算面での都合もあるので大規模な改造を施す対象を絞らなければならなかった。
「ブラック、ジャガー、クイック、トレブはマイナーチェンジのみで行く。」
これらの機体は、少々改造すれば立派な戦力として通用すると久遠は判断を下した。
「シャドホ、デルヴィッシュ、ランスロットが大規模改造の対象だな。」
この3機は、欠点が運用で補えるレベルを超えていると久遠は日頃から考えていた。
すぐさま、大まかな改造費用を頭の中で計算しながらプランを練る久遠。
武装等の変更を出来る限り抑えた改造を模索するものの、それでも予算ギリギリ。
とはいえ、改造できるだけでもありがたい事には変わりは無い。
残る問題があるとするならば、改造中は戦力として使用できないという一点だけ。
「大規模改造は設計に時間が掛かりますので得策とは言い難いのではないでしょうか?」
鳳花の意見は至極真っ当ではあるが、久遠には短期間で終らせる事が出来る根拠があった。
「村雨が道楽で作った機体参照用のシステムを活用すれば、その辺はなんとかなるだろう。」
ボレアリスに搭載してある村雨謹製のデータバンクの存在である。
珍機種、希少機種、改造機種などのデータが山ほど詰め込まれているパンドラの箱。
この中から使えそうな機体のデータを参考にでっち上げるのである。
これならば改造のための手間と時間がかなり短縮されるであろう。
「まあ、設計図面なんてものは村雨の部屋に行けば山のように転がっているだろう。」
他のテックが喉から手が出るほど欲しがる設計図のコピーを山ほど持っている改造の鬼。
その専門家の生息する部屋の惨状ときたら、それはまさに・・・・。
「腐海の森を漁ってでも改造する価値なんてあるのでしょうか?」
この二線級メックを改造する価値がはたして本当にあるのか?
と、いう彼女の抗議を無視する事に久遠は最初から決めていた。
他に道が無かっただけとも言えるのだが・・・。
その後、二人で使えそうな改造機体をデータの山から掘り出す地道な作業を繰り返した。
それを参考に機体の仕様をある程度纏め、細かい所は全て村雨に任せる事で決着したのだった。
結果として、これらの問題児は鳳花の予想とは裏腹にどれも化ける機体であったのだ。