「無茶も通れば道理も吹っ飛ぶ!」

 

 メックをオーバーホールするような大掛かりな作業は前線基地では不可能だった。

 したがって彼はこの戦線後方の設備が整ったこの基地にまで足を運ぶ羽目になった。

 この基地は前線から運び込まれた応急修理では対応不可能な機体を修復し、前線へと

送り返すという戦線維持の中核とも言える極めて重要な兵站基地なのである。

 無茶な機動と酷使が祟り、前の戦いでついに限界を超えて動かなくなった彼の機体。

 彼の目の前で各部をバラしながら細かい損傷状況をチェックしている最中なのだが、

壊れて当然の領域まで使い倒していた彼の表情には焦りの色は見られなかった。

 

「いやはや、どうやったらここまで壊すもんだかねえ・・・。」

 

 損傷状況をチェックしていた半ば呆れ顔で彼を睨む。

 

「使い方は自分で見つけろと言われたから実践したまでの事だ。」

 

 彼はそう言って横目で相手を睨み返す。

 

「まあ、そりゃそうだけどねえ・・・。」

 

 想定外の行動をとりまくる彼に扱い方をサッパリ教えなかったのがそもそもの原因。

 機体の生みの親である村雨楓は機体の損傷状況の酷さに頭を抱えていた。

 

「右手が跡形も無いし、腰部駆動装置はオシャカだし、右脚は折れてるし・・・。」

 

 どういう戦い方をしたら、一回でここまで見事に壊してくるものだか想像がつかない。

 

「右手は敵をぶん殴ったら壊れた、腰は投げたら動かなくなった、右足は蹴ったら折れた。」

 

 彼のこの言い分だとメックとして、一般的な運用をして壊れた事になる。

 

「もちろん普通にやった訳じゃないんでしょう?」

 

 村雨は通常の運用で壊れるほどのヤワなメックを彼には与えていない。

 

「そうだな、威力を増す為にJJ全開で加速してぶち込んだら右手が粉々になった。」

 

 思ったとおり、彼は普通に殴ってはいなかった。

 60tの機体を一度に120mも跳躍させる代物で加速させて殴りつける事は予想外。

 

「投げは二段投げと言って、一度真上に放り投げてからキャッチして地面に再度叩きつけるんだ。」

 

 これまた普通に投げてなどいなかった。

 

「この投げ方だと平衡感覚が狂って受身が取れないから一撃必殺になるんだ。」

 

 降って来た相手を受け止めるなどと言う常識外の過負荷も計算外である。

 ちなみに柔道では、この投げ方は大変危険で外道の技として反則負けとなる。

 

「最後はイナズマキックって言って、ジャンプキックの一種なんだが・・・。」

 

 それなら単なる落下攻撃と同じ損傷でなくてはつじつまが合わない。

 

「跳躍の頂点からJJで加速させて落下、蹴り飛ばしている間も全力全開!」

 

 落下中にさらに加速させるとは自殺行為も良いとこである。

 

「決まればアトラスも一撃で吹っ飛ばせるんだが、リスクがデカイのが難点だな。」

 

 自滅も恐れない反則技を平気で使用する事は想定外の領域。

 このドアホウに対しては村雨ですら怒る気力も失せてしまっていた。

 

「ま、正直言ってしばらくは別の機体に乗ってもらうしかないわね。」

 

 修復するにしても取り寄せないといけないパーツが山ほどあった。

 

「それくらいは覚悟している。別に失う訳でもないから大した事ではないさ。」

 

 お気楽に彼はそう言ってくれる。

 村雨はこの規格外の男に関わった事を今更ながら後悔する羽目になったのである。

inserted by FC2 system