「白銀のサムライ」

 

 

「喰らえ必殺!」

 

 俺は愛機の腕を大きく振りかぶらせる。

 今から放つのは、ある意味禁断の必殺技。

 外せば二度目は無い攻撃方法。

 

「ロケットォォォォパァンチィィィィィィ!!」

 

 叫ぶと同時に目標に向って、愛機の片腕だった物を力一杯ぶん投げた。

 

 ゴッキャアアァァァァンンン!!!

 

 鋭い嫌な金属音が周囲に響き渡る。

 それは必殺技が完璧に決まった証拠。

 狙い違わずそれは目標に直撃、手の鉤爪部分が胸部に突き刺さるのが確認できた。

当然ながら衝撃も凄まじく、相手はバランスを崩して転倒。

そして、そのまま崖下へ転がり落ちて行く。

俺は伸るか反るかの博打には今の所は成功しているようだ。

 

 

おっす!

俺は久遠防人だ。

貧乏と借金がお友達の冴えない三等兵のお兄さんだ。

三等兵の給料と階級でも義務と責任だけは立派な中隊長だ。

自分の半分も生きていない歳の子を彼女にしてロリコンとか言われまくっているのは秘密だ。

 

ゲフンゲフン話が逸れたな。

 

 そりゃいいとして、何でこんな博打を打つ状況になっているかと言うとだ。

 お馬鹿な正規軍が突っ込みすぎて孤立、救援の為に俺達傭兵連合が飛び込む羽目になったのだ。

 そこまでは俺達にとってもよくある事だ。

 問題は、双方が増援を呼びまくったせいで小さな遭遇戦が大規模戦闘に発展した事。

 ちょっとした決戦の様相で虎の子のアサルトメックもチラホラ見える。

 今の所、1個大隊ほどのメックを双方とも投入しての大乱戦である。

 この混乱に拍車をかけている最大の原因は双方の指揮命令系統の機能不全にある。

 理由は、敵味方の指揮官機の通信機が自分の物を含め乱戦の影響で軒並みぶち壊れたらしい。

 想定外の状況ゆえに戦場は泥沼となってゆく。

 

 ここまで混沌としていると敵だか味方だか判断するのは面倒な状況だ。

 よりにもよって味方に誤射されて左胴が大破した。

 敵味方識別無視でぶっ放された大口径の砲弾による破壊は洒落にならなかった。

 左手が辛うじてぶら下がっているデットウエイトと成り下がってしまったのだ。

 どうせ動かないのならば一発勝負の強力な飛び道具として活用する。

 俺の出した答えは非常にシンプルな物だった。

 威力の方はご覧の通り、威力は抜群のようだ。

 正規軍の能無しどもに後で修理費を水増しして請求してやる。

 とりあえず誤射してきたハンチバックは問答無用で蹴り殺してやった。

 相手は。わめいていたようだが先に手を出したお前が悪い。

 左胴が損壊した事により、左手の電子・駆動系統が軒並みダウンした。

 通信アンテナが装備されていた左手が使用不能とは洒落にならん。

 おかげで中隊指揮官としての役目がまるではたせていない。

 情報から隔絶されているおかげで戦況がまるで解らないのが一番痛い現状。

 何とかして打開するにも、まずは目の前の敵を片づけなければならなかった。

 

「さてと、今のもハンチバックなんだよなあ・・・。」

 

 先ほど崖下に落ちていった敵機も同じハンチバック。

 接近戦にやたら強い特化型メックの代表格だ

 振動センサーと経験を総動員して先読み、文字通りの先制パンチを喰らわせたのだ。

 奴の持つ大砲の弾に負けないほどの威力を持つ一撃は、大質量ゆえに可能なものだ。

 実際に投げる瞬間まで相手が敵である事以外は知らない出たとこ勝負の一撃。

 今の一撃は奇襲に近かったので綺麗に喰らってくれたが、次はそうもいかない。

 きっと強烈なカウンターを浴びせられる事間違い無しだ。

 

「さてと、飛び道具って言えば右手のLLくらいなんだが・・・。」

 

 決定打に欠けるし時間もかかる。

 幸い奴の両機であるエンフォーサーはすでに屠っている。

 他の機体も別の友軍機と交戦の真っ最中だ。

 とはいえ、別の敵機がこちらに来るとも限らない。

 なにより、こちらも戦況がサッパリ解らないのでチマチマとなんかやってられない。

 すでに崖下では起き上がろうとハンチバックがもがいている。

 この時点でこちらが有利なのは位置と機種が完全にばれていない事。

 強力な一撃から大口径砲搭載型と勘違いして接近を躊躇する可能性があること。

 そして何より、こちらの方が崖上という有利な地形を有している事ぐらいである。

 実行可能な攻撃手段を即座に取捨選択。

 出た答えは・・・。

 

強力な飛び道具ならこっちにもある。命中精度には難があるが弾代不要。

 

 細かい軌道修正は勘頼りという凄まじくアバウトな攻撃法。

 手頃なソレを拾い上げて、大きく振りかぶる。

 先ほどの禁じ手と同じ感覚でそれを標的に対して・・・。

 

 ぶん投げた!

 

 投石。

 それはいにしえより伝わる人類最古の攻撃手段。

 獲物となる動物に対して硬い石を投げてブチコロスのが狩りの原点である。

 原始的だが簡単かつ片手でも実行可能な攻撃方法。

 何より弾代が不要なのが貧乏な俺にとってはありがたい。

 しかも、相手より高い位置から投げればそれだけ落下エネルギーも追加され、破壊力はでかくなる。

 メックが相手だろうが、それ相応の質量があれば有効な攻撃である。

 一投目は外れて敵の手前に落下した。

素早く勘で修正して第二投を放り投げる。

投石での命中精度はぶっちゃけ数で補うしかない。

 

 ゴオン!!

 

 今度は命中。

 肩口に命中したらしく、バランスを崩して転倒したようだ。

 命中箇所が大きくヘコんでいるのが遠目からも確認できた。

 

イケル!!

 

確信ともいうべき心の声に従いそこらじゅうの石を投げまくる。

どっちみち、ただで使える飛び道具である。

外れても惜しくないし、数を投げれば一つは当る。

 崖下のハンチバックは時代錯誤の攻撃から逃げ惑っていた。

 直撃したらメックでも損傷するような岩が次々と降ってくるのである。

 それも一発ごとに微妙に軌道修正して落下してくる嫌な岩。

 奴の今日のお天気は「晴れのち落石」であろう。

 それはともかく。

 

「むう・・・弾キレタ・・・。」

 

 こかしたハンチバックを岩で軽くラッピングした所で問題発生。

 そこら辺の岩を投げ尽くしてしまったようだ。

 いくらただでも無い物は投げられない。

 そこがこの攻撃法の欠点である。

 幸いにも結構な数の岩を当てたので奴の装甲はベコベコだ。

 だが、大口径砲自体は未だに健在のようである。

 接近される前にすたこら逃げた方がイイかもしれないが・・・。

 あと一歩のところまで追い詰めたような手負いの獣である。

 精神的にはヤケクソに近い状態であろうから実に厄介だ。

 放置すれば味方の誰かが割を食う事になりかねない。

 

「倒すにしても一気にカタをつけられる方法なんてあるか?」

 

 流れ的に撃破する事を前提とした自問自答。

 岩よりも強力な一撃で、岩よりも大質量、それでいて軌道修正のできる物。

 ・・・・。

 

 

 ある事にはある。

 博打要素が強すぎるがやってみる価値がありそうな手段があるにはある。

 問題はそれをやってのける技量が自分にはあるかだが・・・。

 

「奴に投げつける物ならまだある!!」

 

 腹は決まった。

 高速で動き回る奴が相手なら自信は無いが今ならやれる。

 先程までの攻撃で半分埋まっているハンチバックが標的ならいける。

 俺は全速力で崖っぷちに愛機を突進させる。

 進路上には奴がいる。

 躊躇えば勝機が失われるだけだ。

 大質量で軌道修正が可能な代物を奴に叩き込む。

 消去法で探した結論がこれだ。

 

「自分の機体を奴にぶつける。」

 

 一般人から見ればどうかと思うような攻撃法。

 メック乗りから見ても異様な選択。

 遥が見たらどう思うだろう?

 どう見ても自滅一歩手前のような行為である。

 泣いて怒って、拗ねて、一週間は口をきいてくれないかもしれない。

 それでもやる。

 勝利の可能性と言うものが存在する限りは・・・。

 

そして、俺は空へ舞った。

 

 空中で勘頼りの方向修正。

 微妙なズレを修正しつつ目標への進路を確認。

 片足を突き出す格好で姿勢を固定。

 軸線に乗ったのを確認してJJを点火。

 標的に対して一直線に突き進む。

 正直当るかどうかは運次第。

 実はテレビで見た事はあるのだが試した事の無い技。

 博打要素が強すぎるが決まれば一撃でしとめられるハイリスク・ハイリターン。

 かつて地球の英雄が使用していた伝説の技だ。

 コレ生みだした英雄は引退後も世界中の子供たちの為に戦っていたらしい。

 ま、暇があれば自宅前で刀をブンブン振り回していたとも伝え聞いているが・・・。

 細かい点は横へおいておこう。

 投石に続いて俺の辞書に追加された新たなる必殺技。

 

「ラァイダァァァァァキィックゥゥゥゥ!!!!」

 

 絶大無比な威力の格闘攻撃。

 決まれば問答無用で吹っ飛ばされる必殺の一撃。

 決めた方も反動で吹っ飛ばされる禁断の技。

 それが31世紀の現実に蘇った。

 

ガキャアァァァン!!!!!

 

 雄叫びと共に狙い違わず奴への炸裂したソレは甲高い金属音に変換され、鳴り響いた。

 奴の体がくの字に曲がり、盛大に吹っ飛んでもんどりうつ。

 余りの衝撃で上半身と下半身が泣き別れになり別々の方向に飛んでいった。

 一方かましたこちらも反動で反対側に吹っ飛んで派手に地面をゴロゴロと転がる。

 近くの川へ落っこちて止まったから良いものの、建物に突っ込んでいたらエライ事になるとこであった。

 もっとも、破損箇所から浸水して駆動系が止まりかけてヤバカッタのだが・・・。

 それ以上に脚のダメージが深刻だったのは秘密だ。

まさに肉を切らせて骨を絶つ攻撃法。

 勝利の余韻などどこ吹く風という情けない有様だ。

 簡単に説明すると今の俺の状況は・・・。

 

『カッコワルイ』

 

 と、いう事になる。

 せっかく技が決まったのにその後がアレだしな。

 遥が見ていなくて良かったと心底思える。

 次にやる時に備えて、決まった後の姿勢制御を研究するべきだろう。

 決まったのにコケたら興ざめもよいとこだ。

 二度とはやりたくは無いと言うのが本音だが選択肢は多い事に越した事は無い。

 

 ポン!ポン!ポン!

 

 軽い爆発音と共に夕暮れの空に閃光が走る。

 自然の物ではない人工の光。

 味方ではなく敵の作り出した光。

 発光信号と呼ばれる一種の通信手段で混沌としたこの戦場にはうってつけの伝達手段だ。

 乱戦時には自分の位置が敵にばれるので使用できないのが難点だが、こう言う時には役に立つ便利な代物。

 赤、赤、赤の順で空にあがったそれが戦場を照らす。

 それの意味する所は・・・。

 

「被害甚大、全軍速やかに撤退せよ・・・か。」

 

 元ドラコ連合にいた俺はその信号弾の意味を理解した。

 敵が引くと言うならこちらも歩調を合わせた方がイロイロ楽だ。

 

ポン!ポン!ポン!ポン!

 

別の信号弾が空にあがる。

ドラコとの識別は4連発なので非常に容易だ。

青、緑、緑、黄の順であがったそれを合図に至る所から信号弾が次々と打ち上げられた。

 

『全軍速やかに合流せよ、副司令』

 

 という命令に対しての返答が信号弾によって盛んに行なわれている状況。

 傍目からは単なる花火大会だなこりゃ。

 そう思いつつ、背中に仕込んである信号弾を発射する。

 

 青、青、赤、赤、の光の四連発。

 信号の前の二つが自分の状況、後ろ二つが個人識別になっている。

 意味は簡単だ。

 

『我健在なり、貧乏神』

 

 貧乏で赤字ばかりだから赤二つという事は遥には教えていない。

 皮肉以外のなにものでもないし、俺自身も貧乏神が憑いているとも思っている。

 俺が自虐的な事を言うと途端に表情が曇るから困った物だ。

 教えたら絶対に泣きそうだし。

 ま、バレたらその時はその時だ。

 

 やれやれ、今日も何とか生き残れたよ・・・遥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰だ俺の個人識別信号弾の意味と由来なんかを遥に教えた奴は?

 それも貧乏神を疫病神と間違って教えているし・・・。

 おかげで「お兄ちゃんは疫病神なんかじゃないよ!」と、遥に一晩中泣かれたぞ。

 遥は泣き疲れて今はグッスリ眠ってる。

 俺じゃなくて遥を泣かせるような奴には容赦はしない。

 お?遥の母親のセレスさんだ。

 ちょっと話があるって?

 ・・・む?

元凶は副司令

あのジジイ適当な事を遥に吹き込みやがって・・・。

ふむ。

そっちがその気ならこちらの上司を焚きつけて書類仕事を増やしてやるまでだ。

デスクワークが大嫌いなのは解っているからな。

上司の雑務を多少あいつに回しても問題無いだろう。

報復は計画的かつ徹底的にが俺のモットーだ。

 

で、なんですかコレは?

金属バット!?

私の名義で一発ぶん殴ってきて頂戴って・・・マジで?

遥を泣かせるような嘘ついたのが許せないと?

なるほど了解しました。

 

その大任喜んで引き受けましょう。

 セレスさんに見送られながら金属バット片手に目的地に俺は向う。

 今日の任務、副司令金属バットで一発殴って反省させる事。

 

 結果、襲撃は成功したが最終的にはメック戦にまで発展して大騒動になった。

 勝敗は高価な物件を盾にして相手の攻撃を封じ込め肉薄、関節技を決めた俺の勝ち。

 実にセコイ勝かただが勝ちは勝ちだ。

 処分は俺は珍しく無罪放免、副司令は書類地獄と相成った。

 増やされた仕事の半分は本来副司令がするべきものだったのだから同情の余地無し。

 裁きにえらく差が出たのは当然といえば当然だ。

 司令夫人で整備主任のセレスさんを怒らせるからだよ副司令。

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