「地獄の沙汰も金次第?」
敵の遊撃部隊と交戦中である現状は、まさしく猫の手も借りたいほど忙しい。
ところが、肝心の借りてきた猫の手は彼の願いも虚しく戦闘不能になっていた。
それも「敵を目の前にして」という最悪な状況で気を失ってぶっ倒れてくれた。
それは敵からすれば、転がり込んできた格好の獲物であると言えよう。
彼女が乗っている機体の装甲がいくら厚い機体とはいえ、限界は当然ある。
彼女のために命をかける事が必要ならば、彼は迷う事すらしなかったのである。
「ちいっ!こなくそっ!!こっち向きやがれぇえええええ!!!」
全エネルギーをジャンプジェットに叩き込んで敵のド真ん中に踊りこむ久遠。
着地と同時に四方から火線が浴びせられるが彼は怯まない。
「くっ!!俺とボレアリスを舐めるなぁああああああ!!!」
怯む代わりにトリガーを引きっ放しにして目の前のセンチュリオンに連射する。
3対1の分の悪い勝負ではあるが、残りの敵機は仲間が阻止してくれている。
この距離では気休め程度にしかならない煙幕を張りながら、不退転の決意で挑む。
それだけの覚悟をし、同時に実行できなければならない状況に追い込まれていた。
本当に最悪な状況を避けるには自らを盾にしてでも護り抜く。
彼とその機体はそのために生まれ、そのために存在しているのである。
「まずは貴様から命日にしてくれる!!喰らえぇえええ!!!」
彼は魂の趣くままに叫びつつ、怯んだ目の前のセンチュリオンに突撃した。
そして、行動の後先もすでに考えていないような強烈な一撃を喰らわした。
「まずは、一機!残り2機だな・・・いや、新手が来たか!?」
包囲網の一角を成していたセンチュリオンは格座して動かなくなっていた。
視界内に映る敵は、エンフォーサーとクイックドロウだけだったはずだが、
新たに飛び込んできたシルエットに久遠は気がついて渋い顔になった。
「グリフィンとクルーズチェイサーか?この状況では厳しいな。」
新たな敵は迷う事無く動かない遥の機体を狙っている。
状況は正直厳しい、だが逃げる訳には絶対にいかないため排水の陣で挑むしかない。
「埋葬費用は喜んで進呈いたしますが、念仏の方はセルフサービスですよ。」
そんな状況で、緊迫した場面に似合わないマイペースな声が周囲に響き渡る。
数秒後、四肢を持つ文鎮がエンフォーサーの上に故意に落下してきた。
90tの重量を誇りながらも跳ね回る珍メック、ハイランダ−である。
「おや?まだ生きていますか・・・まあいいでしょう。猫さんそっちは宜しく。」
エンフォーサーは左半身を踏み潰されながらも辛くも致命打を避けたようだ。
同時に認識外からグリフィンに向けてLRMが雨あられと降り注ぐ。
騒ぎを聞きつけて駆けつけてやって来た葬儀屋と猫娘の凸凹コンビである。
絶妙なタイミングでのご登場も、これまた毎度の事である。
「遥に手を出そうとするにゃら、それ相応の覚悟ができてるんだよね?」
遥と仲が良いせいもあるのか、怒り心頭のご様子のチグラーシャ。
「まあ、心優しい姫のためならば少しぐらいなら埋葬の費用を奮発しても良いですよ。」
このような状況でも貧乏根性ゆえかソロバンを弾いているへクトール。
逆転の為に必要な有力な手札が久遠の目の前に図らずもそろっていた。
「お前らの戦闘経費は俺が全額出してやる!全力全開で暴れてくれ!!」
彼らの実力を120%引き出す方法は懐さえ気にしなければいたって簡単だった。
部隊での久遠の借金が、一向に減らない理由の原因の一つとも言えた。