「餅は餅屋へ」

 

「まったく、君の一族は寛容なようで抜け目が無く、それでいながら破天荒だな。」

 

 大柄な男がこめかみを押さえ、笑い出すのを堪えている。

 男の名は、惑星「ロビンソン」を治めるアーロン・サンドヴァル公爵。

 常に緊迫しているドラコ連合との境界域の大臣も勤める恒星連邦の重鎮である。

 

「まあ、父もそうでしたが、兄も負けず劣らずの型破りな人ですからね。」

 

 気まずそうに目を横に逸らしながらお茶を飲んでいる女性。

 彼女の名は、惑星「ヴァルハラント」を治めるマオ・ヴァラサム侯爵夫人。

懲りずに襲撃してくるドラコ連合を撃退する為に忙しい兄妹の代理として

現在の立場に置かれたため「留守番侯爵」と平然と公言していた。

 ところが、統治者としての才能が下手にあるせいで、民衆に拝み倒される形で

正式な統治者の椅子に担ぎ上げられて現在に至っている。

 

 

「さっきの話の件だが、私の権限が及ぶ限りの範囲なら協力しよう。」

 

 先程、中断してしまった話に対して、彼は彼女にそう回答した。

 

「毎度毎度すみません。ただ、今回の話はそちらにも関係がある事ですから。」

 

 彼女は資料として持ってきた写真を彼と見ながら溜め息をついた。

 その写真には、幼さが残る少女の姿がハッキリと写されていた。

 

「この子は、ライラ共和国に存在する私共の一族の片割れ、レイゼンベルグ家の分家

であるヴィンセント家の養子だそうですからねえ・・・これで・・・。」

 

 ヴィンセント家は彼女の保護をヴァラサム家に頼み込んできたのだ。

 自分の兄妹と同じ位、向こう側の連中も思考回路がぶっ壊れているとマオは思った。

 

「騙され易いわ、家紋を堂々と見せているわ、この耳と尻尾を隠さないわ、ですから。」

 

 頭を抱えながら写真に写っている少女の問題点を読み上げて行くマオ。

 特に最後の耳と尻尾が付いてる点が、彼女の存在の特殊性を強調している。

 ふさふさした尻尾と大きな犬のような耳がそこには写されていたのだ。

 

「犬、猫の次ぎはキツネと来たか、星間連盟は一体何を考えていたのやら・・・。」

 

 星間連盟の遺伝子工学者達が古代文明を研究して作り上げたハイブリット生命体。

 1番目に開発された犬型と、3番目に開発された猫型をすでに彼は知っていた。

 最初にこの手のものを見た時はえらく驚いたものだが、いい加減もう慣れた。

 この少女は、長らく謎の存在であった2番目に開発されたキツネ型らしい。

 

「民衆からの人気はかなりあったようですね、プロマイドが売られて儲かるくらい。」

 

 跡取りや統治者として見るならば彼女は落第点なのだろうが、なにを間違ったのか

領地の民衆からの人気がやたら高く、養父母や義理の兄弟にも大事にされてきたらしい。

 二人とも「何かが間違っている。」と、思ったがあえて口には出さなかった。

 

 

「とりあえず、見つけたら迷わず兄の部隊に放り込むのが一番の良策かと?」

 

 こんなに目立つ存在も、あそこならば目立たないというか目立てない。

 餅は餅屋、論外は論外な連中に任せれば何事も丸く収まるだろう。

 

「そうだな、例の同盟計画に水を注さないようにするには、それが一番のようだな。」

 

 即断即決で彼は彼女の示したプランに賛成した。

 水面下で着々と進められている恒星連邦とライラ共和国との一大同盟計画。

 ヴァラサム家はライラ側のレイゼンベルグ家との強力なパイプを持っていたため、

王家が進めていた極秘計画に図らずも参加する事となっていたのだ。

 

「この子の保護が成功すればまた一つ、同盟のための既成事実が生まれますしね。」

 

 言葉でどうこう言うよりも、既成事実を積み重ねて反対派を牽制できる。

 とはいえ、この微妙な時期を考慮すれば、迷惑な話である事に変わりなかった。

 

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