「なけりゃ作るさ、デッチあげ!」

 

「で、お前さんが使えそうな予備メックなんて、どこにも無いからデッチあげる事にした。」

 

 村雨は久遠の代替機体に関して頭を悩ませていた。

 点検の結果、久遠の機体は破損箇所以外にも予想以上に各部が疲弊した状態だった。

特に骨格部分の消耗が激しく、さすがにメーカーからパーツを取り寄せる羽目になった。

ボレアリスのパーツはそれなりにストックしていたはずなのだが、久遠が毎回どこかを

壊して帰ってくる事が日常的な光景だった為、部品のストックは底をついてしまったのだ。

村雨は、小手先の誤魔化しで久遠の機体を修理する事だけは避けた方が賢明と判断していた。

 破損箇所を紛い物で誤魔化すと、無茶な久遠の操縦には対応できなくなる可能性がある。

もっとも「技術屋として不完全な修理に納得できない」と、いう個人的な理由もあった。

 そうなると、彼は修理が終るまでの間は宙ぶらりんで遊ばせる事となってしまう。

 修理が完了するまでの間、何かしらの機体に放り込んでおく事が決定していた。

 とはいえ、余剰になっている機体はどれも彼の性格には合いそうに無かった。

 

 

 とりあえずパーツが残っていた手足部分の修理を完了させ、ストックしてあるパーツから

残りの部分を補って、彼専用の即席メックを作り上げることにしたのだ。

 

「即席でも何でもいいから、使えるメックならば問題無い。」

 

 久遠も村雨の腕前だけは信用しているので、この件は完全に任せる事にしていた。

 

「それじゃ話は早い。これがその作成プランなんだけど文句無いわね?」

 

 村雨はすでに設計図も作成してすぐに取り掛かれる準備まで終えていた。

 彼女によって提示された完成予想図に久遠からは文句が出なかった。

 この事にツッコミを入れたのは久遠にくっついて来た遥の方である。

 

「お兄ちゃんが使うメックとなると、即席メックだとやっぱり心配かなあ?」

 

 小さな姫君は、何かと無茶をしまくる久遠の身を心配していた。

 

「遥が言う事も解るけど・・・さすがにそれは無理な注文だわ。」

 

久遠が納得しなかった時の為の説得材料に持ってきた余場機体一覧表を彼女に見せた。

そこには、シャドホのD型とジャガーメック、クイックドロウの名前しか載っていなかった。

どいつもこいつも装甲の薄さは折り紙付きの機体ばかりである。

つまりは、人気が無くて引き取り手がおらずに余っているお蔵入りのメックばかりである。

遥もやっと村雨の意図が理解できたらしく、黙って村雨の方を見つめていた。

 

「心優しき姫君よ心配するなかれ、こいつには頑丈なメックをくれてやるつもりだ。」

 

装甲が厚く、突撃特攻が可能な前衛型のメックこそが彼の性格にあったメックと言える。

 提示された機体を簡単に説明するならば、デスチェイサーに似たような機体である。

 拾い物のアーチボルトの胴体を兄弟機であるデスチェイサーの部品で修復し、ボレアリスの

手足をくっつけて、ポット形式でSLが山が背負わされた極端な機体。

 接近戦で圧倒的でありながら、火力と装甲の厚さはボレアリス並という典型的な突撃君。

 即席メックではあるが、予想以上に使えそうな機体であると久遠は判断した。

 

「そういえば登録名は何にする?セレスは番犬君なんてコレを呼んでいたけど?」

 

 遥の母親は技術屋としての腕前は一流なのだが、ネーミングセンスが三流だった。

 

「司令の乗っている「ピョンピョン丸」よりはせめてマシな名前は付けたいですねえ。」

 

 一部隊の司令官が乗るメックとしては、あまりにもあんまりな名前である。

 

「私は可愛いと思うけど・・・でも、お父さんが乗ってるとなると・・・ちょっと微妙。」

 

 ちなみにピョンピョン丸の6号機が彼女の愛機である。

 

「じゃあこれは二人の宿題にするか?セレスよりは二人ともセンスがいいだろう。」

 

 要件を話し終えると村雨はさっさと引っ込んで行ってしまった。

 残された二人は、村雨からの宿題についてしばらく頭を悩ませる事となったのである。

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