「二択問題の基本は三択目を捏造する事」

 

「なるほどな、瑠璃様の直感は偵察衛星よりも当てになると言う事か。」

 

 久遠は眼下に広がる丘陵地帯をじっと見下ろしていた。

熱源反応からして約2個中隊もの敵が、この辺一帯に散開して潜んでいた。

 

「こちらの航空戦力を削ぐ為の移動式の即席対空陣地と言ったところか?」

 

 ジャガーメックやライフルマンといった対空戦闘が得意な機体ばかりが確認できた。

 これらのメックを即席の対空砲台として使い、敵航空戦力に奇襲攻撃を仕掛ける。

 当然、自走できる砲台なので流動的な勢力図の下でも、配置も撤収も容易である。

 久遠がこの厄介な連中を知り、ここに居合わせたのも偶然の巡り合わせであった。

 

「発案した奴の頭の良さは認めるが、功を焦って小物に飛びついたのが運の尽きだな。」

 

 そもそもこの話は、早朝に正規軍の小型機が行方不明になった所から始まった。

事故の線もあったのだが、小型の哨戒機のパイロットはベテランであった。

不審に思った後方集団を率いる司令官の瑠璃は、久遠に予備戦力として確保していた

1個中隊を率いさせ、この辺一帯の調査と墜落機の捜索に当らせる事にしたのであった。

 

「血の繋がりは無いとはいえ、さすがは司令の妹君。勘の鋭さは兄譲りか・・・。」

 

 哨戒機は濃密な対空砲火に晒されて乗員もろとも黒コゲとなっていた。

 敵はこちらの機体を撃墜したのに移動もせずにこの地域に留まっていた。

 普通は小物を無視し、撃墜したとしてもすぐに移動し、敵に手品の正体を明かさない。

 そういう意味では戦術的な失策ともいえるお粗末な種明かしであろう。

 だが、ここは頻繁に航空機が通過するエリアなので魅力的な狩り場だからとも言える。

 この丘陵地帯の先には、現在も小競り合いが繰り返される最前線がある。

 防衛軍は地上戦力の数では劣るものの、航空優勢が確保され制空権があった。

 航空戦力を対地支援に活用して、現在の拮抗状況にまで持ち込んだ経緯がある。

 この地帯に展開し、その存在を誇示する事によって航空戦力の動きを牽制する。

 それが目的なら戦略的には非常に納得がいく話となる。

 航空戦力の動きを鈍らせる事ができれば、地上戦力が動き易くなり戦局を打開できる。

 

「噂の敵の新参謀はなかなかの切れ者だな、これも小手調べ程度の策だろう。」

 

 最近の敵は、3割くらいが真っ当な戦略を立ててくるようになった。

 まあ、あとの7割は相変わらずの外道ぶりなのではあるが・・・。

 こいつが主流派になって作戦を立ててきたら結構まずい事となる。

 徹底的に策を失敗させて、失脚させるに限るというのが久遠なりの結論だった。

 

 

「さてと、これは逃がすと厄介な事になりそうだな・・・どう思う鳳花?」

 

 ここで取り逃がすと味をしめて、また別な所にこんなものを作られかねない。

 副官を務める鳳花は、久遠と同じく敵から引き抜かれた経緯がある者の一人である。

 

「これは・・・少々マズイですね。あと10分程で対地支援の為の友軍機が通過します。」

 

 各所からの口頭報告や通信傍受を久遠に変わって引き受けていた副官の予想外の返答。

 

「なに!?今日の対地支援の予定は午後からだったハズ・・・!?」

 

 予定よりかなり早めに対地支援の航空機を発進させたという事の理由はただ一つ。

 敵がこのタイミングを狙って攻勢を仕掛けてきたという事に間違いなかった。

 このままでは、何も知らないで通過しようとする友軍機が敵の対空陣地に食われてしまう。

 かといって、迂回させてしまえば対地支援が間に合わない結果になるかもしれない。

 二択問題の選択肢に三択目の選択肢をデッチ上げるのは彼の得意分野だった。

 

「全機無線封鎖解除、友軍機を敵に食わせるな!全力全開でぶっ潰せ!!」

 

 手近な標的に機体を突っ走らせながら、手持ちの全戦力を突入させる事に決めた。

 想定外の奇襲をブチかまし、逆に度肝を抜いてやるのが彼の選んだ選択だったのである。

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