『メックに釣られて入隊ス』

 

 

「では、これから面接を始める。よろしいかな?」

 

カミオンは前とは違い、部隊の司令官としての顔で対応している。

 

「はい、お願い致します。」

 

緊張でガチガチなのは、新米のメック戦士サリア・イクサイズ。

銀髪の長い髪と綺麗な碧眼の持ち主であり、性格的には忠犬タイプのようだ。

外見上の問題があるとすれば、書類上16歳なのだがあからさまな発育不良というか・・・。

童顔という事もあるだろうが2・3歳ぐらい幼く見えないことも無い。

まあ、そのほうがメックに乗る分には有利なコンパクトサイズのメック戦士である。

 

「とりあえず、聞いておきたい事があるのなら聞いてくれ。」

 

緊張を解くようにカミオンは質問を促がす。

しどろもどろな彼女が落ち着くまで少し待った。

 

「あの、私の配属はどこになるのでしょうか?」

 

やっとこ落ち着いた彼女の出した質問。

それは基本的なものではあるが重要な事だ。

彼女のメックは20tのスティンガーである。

しかも大破している状態。

修理する事には一応しているが、元手が無い状況。

七里には太鼓判を押されているとはいえ気にはなる。

修理されても間違いなく偵察小隊のいずれかに属するであろう。

それでも配属先は気になるというものだ。

 

「わが隊は状況にあわせて編成替えをするので、配属がどこかとはいえない」

 

狼小隊は即興で部隊編成するので、彼女はどこに配属するかは状況しだいだ。

まあ、部隊の現状と彼女の持ち込んだメックから総合的に判断すると、彼女の配属先は偵察小隊であるだろうが・・・。

 

「それはともかく、君は仇討ちが目的なのかね?」

 

履歴と条件に目を通してカミオンは問題点を指摘する。

 

「はい、姉の仇を追いかけています。」

 

サリアはギクリとした。

 

「ふむ・・・しかしだな・・・スティンガーで大丈夫なのか?」

 

たかだか20tのメックで仇討ちなど言語道断の行為である。

 

「たぶん返り討ちに合う可能性のほうが高いと思います。」

 

スティンガーは偵察用メックだ。

戦闘ではほとんど無力に近い・・・。

その証拠は大破状態の機体が物語る。

偵察機体を戦闘に使用してはいけないのだ。

使うとほぼ間違いなくこうなる。

 

「だろうな・・・偵察任務をホッタラカシにして仇を追い回されたら部隊としても困る。」

 

指揮官として、部下に本来の使命を忘れて仇討ちに走られたのでは部隊全体としても困るのだ。

 

「・・・・。」

 

このせいで今までどこの部隊からも不採用になっていたのだ。

思わず手を握り締めて俯いてしまう。

半分失機者状態のサリアの配属をどうするかと考え込むカミオン。

サリアの方は採用されないかと気が気じゃない。

カミオンは何かを思いついたように机の上で何かを探し始めた。

 

「まあ、そう心配するな。すでに採用するつもりだからな。」

 

不安になっているサリアを見かねてカミオンはフォローをいれる。

七里が太鼓判を押した時点で手放す気などさらさら無い。

むしろ首に縄つけてでも引っ張ってこようかとも思っている。

 

「え?」

 

すでに採用が決定しているらしい、目をキョトンとさせてサリアは棒立ちになっている。

 

「条件はあるが、仇討ちを本気でするというのならこの中から好きなものを一つ選んでくれ。」

 

どうやら探し物が見つかったらしく目の前に3つの資料が並べられた。 

 

「?」

 

意味がわからず資料を開いて覗き込む

 

「バランス型のブラックハウンドと火力重視型のストームレイン、それに高機動型のツェットだ。」

 

簡単に説明を付け加えるカミオン。

 

「これらのメックは寄与ですか?」

 

記されたメックはどれもこれも強力なメックだ。

当然新米で、それも新参者にはこれらを寄与するだけでも破格の条件だ。

 

「いや、譲渡だ。」

 

さらりと凄い事を言われた。

 

「はい!?」

 

また固まってしまうサリア。

これらのメックの中から好きなものを一つくれるというのだ。

これに飛びつかないメック戦士はいないであろうが・・・。

これを貰うには気になる事がある。

 

「あの・・・条件というのは?」

 

控えめに恐る恐る聞いてみる。

いくら破格の条件でもあんまりな条件では断念するしかないが・・・。

 

「簡単な事だ。義理でいいから俺の兄妹になる事だ。」

 

 サリアに対して笑顔で答えるカミオン。

 

「兄妹にですか?」

 

予想外の条件だ。

 

「ま、世間的に義理でもかまわんから兄妹になればメックを譲渡してもおかしく無いらしいしな。」

 

手をパタパタとさせて答える。

どうやら兄弟になれというのは、メックを譲渡した時に部隊で問題にならないようにする配慮のようだ。

 

「解りました。条件を飲みます。」

 

ホッとしたように胸を撫で下ろすサリア。

別に義理の兄妹になるのならそれほど抵抗は無い。

それに部隊内に強力な後ろ盾がある方が安心できる。

 

「交渉成立だな。で、どれにするんだ?」

 

どれにしようかと資料と睨めっこしてサリアは悩んでいる。

 

「まあ、オススメはブラックハウンドだな。俺も似たようなのを使っているから解るんだが。」

 

PPCとMLを主武装に平均的な機動力と重圧な装甲を持つ黒い猟犬。

数は少ないが本家から正式量産されている優秀な亜種である。

遊びの要素がまるで無い非常に効率的な設計だ。

 

「では、ブラックハウンドにします。」

 

サリアは資料をカミオンに返す。

この機体なら新米の自分でもそれなりに戦えそうだ。

 

「そうか、ならその紙を持って格納庫に行けば貰えるようにしておく。」

 

機体譲与の正式な書類らしい。

なんでかサインには花丸がついている。

 

「では、本日これを持ってサリア・イクサイズ伍長は狼小隊に入隊を許可する。」

 

カミオンは正式に新入隊員のサリアの入隊を許可した事を宣言した。

 

「はい、頑張らせて頂きます。」

 

丁寧に深々とお辞儀をする。

 

「それと、俺の呼び方は好きに呼べばいい。これから兄妹としてよろしくなサリア。」

 

よろしくと握手を求められたのでサリアも握手をする。

何というか微笑ましい光景?

 

「あの・・・格納庫にはどう行けばよいのですか?」

 

来たばかりで右も左も解らないサリアには格納庫の場所など解るはずも無い。

 

「とりあえず、だれか案内つけるか・・・。」

 

暇な奴は消去法で見つけ出すのが一番だと名簿に目を通し、目ぼしい者に片っ端から電話をかけまくる。

3回目で案内してくれる人が決まったらしく、彼は電話の受話器を置いた。

 

「案内が来るまで君の使うメックの資料でも見ているといい。」

 

落ち着き無くソワソワしているサリアにポンと資料渡すカミオン。

 彼女の気が紛れる物を与えておくのが一番だと思ったらしい。

 下手に会話するよりも彼女にとって気楽な時間つぶしとなるだろう。

 案の定、すぐに彼女はそれを読むのに没頭し始めた。

 

 そして、案内役の者が来た事に気が付かずに読みふけり、カミオンに呼ばれて初めてその事に気が付いてパニック状態な平謝りをしたのは秘密である。

 

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