「常識はお星様に」
「彼女については能力に問題無し、背後関係についてはノーコメントかな?」
目の前にいる青年に微笑みつつも有無を言わせないのは、彼より年下の上司。
黒く長い髪と瞳を持つのに正真正銘の恒星連邦の爵位持ち。
穏やかながら凛としたその姿は大和撫子と言ったほうが解り易い。
独立遊撃戦闘団「狼小隊」後方集団司令官、瑠璃・ヴァラサムである。
「はあ・・・瑠璃姫のご命令とあれば従いますが・・・あの格好は・・・。」
呆れ顔で言葉に詰まっているのは同じく黒髪黒目の青年士官。
最近は後方いる事が多い為、彼女の補佐役を務めている久遠防人である。
彼が今抱えている問題は、最近入ってきた新入隊員に関しての事だ。
性格や能力に関しては問題無しと彼も認めていたが、問題はその容姿。
「あなたも似たようなものを知っているでしょう?あれと同じですよ。」
キツネの耳の尻尾がついてる人間なんてこの世にいる訳が無い。
いる訳が無いのだが、彼は似たような存在を知っていた。
「まさか、クドリャフカとチグラーシャの他にもいたのですか!?」
星間連盟期に生み出された迷作ともいえる生体兵器の一つ。
遺伝子工学を駆使して人をベースにして作り出された人工生命体。
従順で驚異的な筋力と持久力を誇るが、ちと頭が足りない犬型のクドリャフカ。
高い瞬発力を発揮するが、自由奔放で落ち着きが無い猫型のチグラーシャ。
その姿はあからさまに趣味の世界にまっしぐらである。
「はい、よくできました久遠君。そうです、彼女はキツネの人なのです。」
そんな事を言われても久遠は喜べず、疲れたように自分の机に突っ伏した。
だいたい「キツネの人」ってどんな人!?
「瑠璃様、ここの常識というものは高度何メートルに設定されているのですか?」
上司から任せられる仕事はともかく、ここの非常識さに久遠はついていけてない。
「そうですね、だいたいお星様の位置ぐらいではないかと私は思っています。」
ようは論外・場外・問題外の領域だと彼女はさらりと言ってのけたのだ。
「銀河のバックスクリーンまで飛んできそうですね・・・この調子だと。」
彼女の回答は、彼にとっては的を得たホームランのような回答だったに違いない。
「そうですね、メカの人やドラゴンさん。魔法を使う人も既にいますし・・・。」
意思を持ち、好き勝手に動き回る不思議メック「神威」。
強固な甲殻を持ち、強襲メックとも互角に戦える鎧竜「グララモス」。
ファンタジーな世界から迷い込んできた勇者ご一行様。
「次ぎはどんな人が来るのでしょうか?ちょっと楽しみにしてます。」
次があるとは思いたくない久遠だが、楽しそうに目を細める上司の手前である。
「そうですね、頭の打ち所が悪く、愛に生きる事に目覚めてしまった迷惑な奴とか。」
などと、適当な事を真顔でついつい答えてしまった。
「なるほど、ところで久遠君はキツネの人は嫌いなのですか?」
的確に的外れな追い打ちをかけて来る上司にゲンナリしつつも答える久遠。
「キツネは嫌いではありません。もっとも狼の方が好みではありますが。」
狼の耳と尻尾をここでつけているのは彼の小さな小さなパートナーだけ。
「なら問題無いでしょう。それと狼の子とのお付き合いもキチンとお願いしますね。」
彼女は、彼と自分の姪が一緒にいる時の光景を思い浮かべて微笑んだ。
一方の彼は、そっち方面の話が苦手なために受け流す事も、答える事もできなかった。