『類は友を呼ぶ』
「ううっ、お腹減ったなあ・・・。」
仕事を探すためにやってきたコムスターのロビーで盛大にお腹が鳴ってしまい赤面する少女。
サリア・イクサイズは途方にくれていた。
路銀が底を尽き、その日の食べ物にも困っていた。
原因は大破状態の自前のメックと自分の移動のための費用である。
幼い頃から自分達の親代わりに頑張っていた姉を殺した仇を探し回いるのだ。
とはいえ、姉の仇を探す事よりも、まず生きている自分の空腹を何とかしなければならない。
そうでなければ行き倒れになる事は確実だ。
「あう・・・稼ごうにもメックがあの状態じゃ。」
姉の乗っていたフェニホは仇に持ち去られている。
おかげで彼女のお墓の中はスッカラカンだ。
残されたのは、姉が以前捕獲した大破状態のスティンガーと無傷のF型ジャベリンだけであった。
妹にジャベリンを譲って自分はあえて大破状態のスティンガーを継承した。
少しでも妹の生存率をあげる事が可能であろう。
情報によると仇はまだ恒星連邦内に留まっているらしい。
妹と手分けして探しているのだが、まだ手がかりすら掴めていなかった。
「返り討ちされるならともかく、お腹へって行き倒れました。じゃ、デルタに申し訳ないもんね。」
頭にハラペコでぶっ倒れる図が浮かんだ。
かなりかっこ悪い。
末代があればの話だが長らく笑われるであろう。
「それだけはヤダなあ・・・。」
ある意味失機者になるより嫌な事だ。
どの道途方に暮れるしかなかったのだが・・・。
意外な方向へこの後進む事になろうとは、この時はまだ考えもつかなかった。
「どうしたの?」
ボーッとしていたらいつの間にやら覗き込まれていた。
黒ブチの男物の眼鏡をかけているツインテールに髪を纏めた同世代の女の人。
あんまり溜め息ばかりついていたから気になって尋ねてきたらしい。
「い、いえ、仕事が見つからないだけですよ。」
手をパタパタと振って答える。
「お仕事って何をされるのですか?」
彼女は仕事というものに興味があるらしく聞き返してくる。
「ええと、メックの操縦を少々・・・新米ですけど・・・。」
勢いに負けてしどろもどろで答える。
「なら、私と同じなんですね。」
彼女はポンと手を叩いて目を輝かせる。
凄い解り易い人だなあ・・・。
と、いうか同業者?
全然そういう風には見えないけれど・・・。
それっぽくない自分も人の事いえないけれど・・・。
「なら、私のいる部隊に入りませんか?」
はい?
脈絡も無いいきなりの提案。
「いえ、そのメックが大破状態なので・・・」
そう簡単に入れるとは思えないんだけれどねえ?
「大丈夫ですよ。私なんか失機者で元ドラコ連合でも入れましたから。」
え?
失機者でも入れるのっていうか、元ドラコ連合が入れる部隊って?
「そういう事なんで、ぜひ入ってください。人手が凄く足らないんです。」
と、手を合わせて拝まれる。
こっちの方が拝みたいぐらいなんですけど?
「え、えっと、解りました。とりあえず入隊希望と言う事で良いですか?」
と、このチャンスを掴むため、あわてて答えるも、直後に・・・。
ググゥーーーーーッ!!
盛大なお腹の音。
思わす固まって真っ赤になってしまう。
それに対して笑顔で彼女は対応してきた。
「ん?お昼まだなんだ?なら丁度いいから私達と一緒に食べましょう。」
ポンと手を打って勝手に決定してしまう。
で、ズルズルと手を引かれてどこかへ連れていかれる事になる。
うっ、見た目と違って何この凄まじい腕力は?
細い外見と違い小柄とは言え私の体を平気で引きずっていける怪力。
この人ただ者じゃない。
「あっ、あの、ちょっと待って!?」
屈託のない笑顔の彼女に引っ張られて行く。
おせっかいと言うか、奇特な人というか・・・。
と、いうかどうも天然っぽい。
あっ、でもお金が・・・。
「あっ、そうそう巨大な弁当箱だからビックリしないでよ?」
どうやらお弁当らしい。
問題は無いみたい。
あ、このまま流されていいのかな?
でも、悪い気はしない。
「あ、隊長、みんな呼んでください、お昼にしましょう。」
20代の男の人を見つけた彼女は手をパタパタと振っている。
って、ここはまだコムスターのロビー内ですよ?
悪目立ちしています。
周囲の目が凄く気になります。
勘弁してください。
「おう、解った。」
隊長と呼ばれた彼はすぐに仲間らしい人達を呼び集めた。
「ん?ところでその子は誰だい?」
やっとこ私に気づいたのか質問してくる。
この隊長さん、抜けているのか大物なのかサッパリ解んない。
「入隊希望者ですよ。この人なら太鼓判押せますよ?」
あの〜、その無責任な発言はどこから来るのですか?
私は新米で失機者同然なんですが??
「太鼓判ねえ・・・ま、七里が言うなら面接するけど?」
いいんかい?
と、思わず心の中で突っ込みを入れたくなった。
「はい、私の第六感に狂いは無いです。」
根拠は勘ですか!?
「なら、大丈夫だな。飯にするぞー。」
この人達は彼女の勘というものを信用しているらしい。
と、いうか話も途中で昼ごはんに突入する事になった。
場所を移動して小高い丘の上。
そこには偽装してある1個中隊分のバトルメックが並んでいた。
どれもこれも見た事が無いメックばかりである。
どうも改造機らしい。
普通部隊の機体を部外者には見せないのが常識なのに・・・いいのかな?
その中でも一際目に付いたのが一機のシャドウホークらしきもの。
なんか肩にAC20が付いているのは気のせいでしょうか?
気になって見ていたら彼女が細かく説明してくれた。
彼女の愛機がこの機体だそうだ。
なんか著しく間違っているような気がする。
それ以上に気合の入った16段合体という訳の解んない重箱が気になる。
誰が作ったお弁当なのかなあ?
「まあ、見たマンマの出たとこ勝負の機体なんだけれど・・・。」
歯切れ悪そうにして遠い目をしているのは苦難の証?
思い切りだけで設計したとしか思えないような機体である。
使いこなすどころの話じゃ無いような・・・。
「戦うとか、争うとかいうのはあんまり好きじゃないのにねえ。」
とか、言いつつもしっかりと目当ての物は確保している彼女。
案外抜け目が無いのかも?
「ま、どんどん食べてね。なんか隊長の事だからまだ追加を隠してそうだし。」
どうも、隊長さんの手作りらしい。
試しに卵焼きを一口食べてみた。
「あ、美味しい。」
ふんわりとした食感と程よい甘味が絶妙なバランスを保っている。
「でしょ?」
さも当然とながら笑顔を浮かべる彼女。
その向こうでは他の人たちが無益な弁当の具の争奪戦を繰り広げていた。
と、そこにさらに見かねた隊長さんが5段の重箱を投入した。
食事ぐらい楽しく喰え、と、説教しつつも小さな子達の分を強制的にぶん取っている。
何というか鍋奉行っぽい。
「いつもこんな感じなんですか?」
呆れながらも質問してみる。
「そうだよ?賑やかな方が楽しいし♪」
その言葉には心から同意した。
賑やかなのは好きだから。
その間は決して寂しくなる事が無いから。
姉妹三人揃って騒いでいたあの頃が少しだけ懐かしく思えるから。
この部隊に入りたいと思い始めている。
「ええと・・・あれ?」
頭に指を当てて彼女は考えてみる。
「まだ、名前聞いてなかったんだっけ?」
やっぱり抜けているんじゃないかなあこの人?
名前を聞かなかった私も人の事言えないけれど・・・。
「私の名前はサリア・イクサイズ。あなたは?」
クスリと笑いあいながらお互いの自己紹介をする。
「私は遠里七里。サリアさんよろしくね。」
それからあれこれ仲良く世間話に花が咲く二人を横目で見ながら、隊長は部隊に彼女を入れることを内定していた。
隊長の名はカミオン・ヴァラサム。
自称小市民の狼小隊司令である。
かくして戦場の破壊神と呼ばれる撃墜王、遠里七里とその後、ケルベロスと呼ばれる事になる撃墜王、サリア・イクサイズはこうして出会った。
古人曰く、類は友を呼ぶ。
と・・・。