「珍種となった猟犬座」

 

「すまん、洒落た所とか全然解らん。」

 

 基地内に殴りこみ同様に強引に店をおったてた曰くつきの喫茶店に久遠はいた。

 店主と司令が意気投合した結果、この店は正式なものと相成ってしまった。

 最初はパン屋だったのだが、最近は店員が増えて喫茶店に進化している。

 

「私はここのアンパンとかが大好きだから問題無いけど?」

 

彼と向かい合っているのは、先日おごる約束をしたマリエルだった

甘い物が大好きな彼女は「喫茶木村屋」の常連でもあった。

 

「でも、遥ちゃんのためにも、流行とかも勉強しなくちゃいけないよ?」

 

小豆シェイクを啜りながらも的確に女性としてのツッコミを入れる。

 

「それは・・・そうなんだが・・・流行とか全然解らないしな。」

 

 貧乏ゆえに質実剛健が身についている為か、久遠は流行とかには疎かった。

 もっとも、遥かにしては久遠と一緒ならそれだけで間違いなく大喜びであろう。

 彼女も諸事情で世の中の流行とかには疎かったのでちっとも問題ではないのだが・・・。

 それに、この店の店員とも仲が良い事もあって、遥もこの店は大好きであった。

 

 

「久遠君らしいというか、なんというか・・・で、また借金増えたって話は本当?」

 

 出撃する度に戦果はあげるのだが借金が増える一方で、ちっとも減らない。

 理由はイロイロあるのだが、一番の理由が機体の修理費であろう。

 

「この前の戦闘で、ついにメーカーから部品を取り寄せる羽目になった。」

 

 久遠が、借金が増えた事をさも当然と言うのにマリエルは正直呆れていた。

優秀な整備班がいる彼の部隊の手に余る壊れ方とはどういうものなのだろうか?

 

「この前のって、おごりの約束をした時の事?」

 

 マリエルがおごって貰う約束をしたあの一件の事である。

 

「ああ、時間が無かったんで禁じ手を使いまくってしまったからな。」

 

 時間が切迫した状況で彼はどうにか対空陣地を攻略してのけていた。

 当然ながら、それなりのリスクを彼は冒して目的を達成していたのだ。

 

「おごって貰うのも・・・なんか気が引けるかな?」

 

 ただでさえ閑古鳥な彼の懐をさらに寂しくさせてる自分がいる事に気が付くマリエル。

 

「それは気にするな、ちょっと相談事があるんだが聞いてくれないか?」

 

 気まずくなりそうな雰囲気を嫌い、久遠は唐突に別の話題に切り替えた。

 

「えっと、いいよ。私に答えられる事ならば。」

 

 気まずい雰囲気はマリエルも苦手であるので、すぐにこの話題に飛びついた。

 

「乗り換え機体の名前についてなんだが、一応「番犬君」って仮の名前がついている。」

 

 乗り換えメックの名前について遥と二人でアレコレ考えているが未だに決定打が出ない。

 このままでは仮の名前のハズだった名前が正式名称になってしまう事もありえるのだ。

 

「あの白い機体の名前って、ボレアリスで間違いなかったわよね?」

 

 マリエルはあいまいな記憶を辿ってヒントとなりそうなキーワードを探していた。

 

「原型はシリウスっていう機体だ。どちらも星の名前と村雨から聞いている。」

 

 シリウスは大犬座の一等星であり、ボレアリスは冠座の学術名からとっていた。

 

「そういえば、猟犬座の犬の名前にアステリオンっていうのがあるけど?」

 

 猟犬座は二匹の犬「アステリオン」と「カラ」によって構成される星座だ。

 

「星座繋がりか・・・それにしよう。なかなかトンチが聞いていて面白い。」

 

 久遠は気に入ったようで、これに決定する事に腹を決めたようである。

 

 こうして後に珍妙な猟犬と呼ばれるアステリオンが誕生したのであった。

 

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