偵察家業」

 

 私はフリーの傭兵。

 特定の部隊には所属せずに暮らしている流れ者。

この地に流れ着いたのはたまたまだ。

今は地元の政府に雇われ強行偵察メック小隊の小隊長を務めている。

   余所者に対する待遇としては破格とも言える条件だ。

 しばらくはこの地で小遣い稼ぎにいそしむとしよう。

 そして今日も列機を従えての任務に出ている。

 

 名前と裏腹に機動性が平凡な水準を維持しているだけのワイバーン。

 汎用性を追求しすぎて何やら訳の解らないお子様ランチな機体になったシャドウホーク。

 被弾を考慮するという戦闘兵器の基本概念をどっかに忘れてきてしまったハッサー。

 重量級ながら足が速いが遠距離武器がある敵にはどうにもならんフラッシュマン。

 で、最後にジャンケンで負けて愛機になっちゃった練習機であるカメレオン。

 

この5機で小隊組んで強行偵察して来るのが我らの日常。

正気の沙汰ではないとは思う。

 当然ながら任務としては敵を発見して適当に交戦して引き上げるのが日課。

 以前と違い、背後には凶悪なまでに強い友軍が控えているので負担は少し軽くはなっているのだが、

それでも難度が高い任務と言えよう。

 隊員も正規のメック戦士ではなく整備員と学徒兵と寄せ集め所帯というのが泣けますな。

 腕が悪くないのがせめてもの救いと言えましょう。

 まあ、なんとかメックの方も使えるように上級テック様々に拝みこんでカスタムなんぞしては

おりますが・・・。

 

「敵部隊補足!」

 

 どうにもこうにも闇夜の中を強行偵察中の我部隊に対して、敵は番犬を放ったようである。

 先導していた部下のハッサーが敵を発見した模様。

 

「敵はいったい何機かな?」

 

 毎度の如き展開なので、のほほんと言って返す。

 転送されてくるデータに目を通してみる。

 ふむ、かなりの高機動型が複数接近中みたいですねえ。

 

「現在センサーで確認できる反応は4機です。」

 

 2対4。

 逃げよっかな?

 

「機種特定完了。フェニホ、フェニホ、ジェンナー、ジェンナー。」

 

 あからさまな偵察機狩り小隊の編成。

 

「おやまあ、厄介な相手ですねえ・・・。」

 

 最近このエリアでは正規軍の偵察機の損害が鰻登りに増えているらしい。

 どうもこいつらが、正規軍の偵察小隊をことごとく叩いて我々を引っ張り出した張本人のようで

ある。

 

「むう〜、叩いておかないと、どの道任務続行は無理ですねえ〜。」

 

 やり合うにしても数の不利を何とかしなければならない。

 歩調を合わせるのがメンドイので機動力の低い残りの3機は来る途中にカクレンボさせている。

 そこまで誘い込んで袋叩きにしましょうか?

 

「嫌がらせしながら所定のポイントまで鬼ごっこしますよ?遅れないように。」

 

 愛機のカメレオンを反転させて後退する。

 

「了解。」

 

 ハッサーも急旋回してそれに続く。

 しばらくは距離を保ったままの追いかけっこを続けなければならなくなったようだ。

 まあ、振り切れはしないが追いつかれる事も無いようで・・・。

 長丁場な鬼ごっこ。

 と、言うよりマラソンに近くなってきた。

 それにしても、やたらムキになって追いかけてくるあたりが執念深いと言うか、馬鹿というか・・・。

 罠があるとか、陽動だとか考えてなさそうですねえ?

 こんな連中相手に損害を増やす正規軍のレベルの低さに呆れかえる。

 

「さてと・・・そろそろやりますか〜?」

 

 潜んでいる味方機の方向に向かって全力疾走をして逃げきり体勢をかましてみる。

 罠がありそうな雰囲気をちらつかせて、敵の行動パターンを見てみようというのが狙いであった

りなかったり。

 相手がこの挑発にのるかどうか相手次第ではあるが・・・。

 

「執念深いだけか?単なる馬鹿か?見極めさせてもらいますよ?」

 

 後方警戒用のカメラに移された敵は何の躊躇も無く、全力疾走をし始めたようだ。

 なんと無知で無計画で無警戒な相手なのでしょうか?

 

「・・・・馬鹿決定!!」

 

 少しだけ機体の進路を左にずらす。

 それに合わせたようにハッサーは右へ進路をずらして行く。

「仕方ありませんねえ・・・余りしつこい方はここらでお引取り願いますか?」

 走らせていた機体を急速旋回させて敵と向き合う。

 それが意味する事はすなわち・・・。

 

『もらった。』

 

 威勢の良い掛け声とともに先程まで自分が走っていたラインをなぞるように火線が逆走する。

 潜んでいたワイバーンとシャドホ、そしてフラッシュマンからの集中砲火。

 無防備に追撃してきた敵に強烈なカウンターを浴びせる。

 

「全機突撃しちゃってください。」

 

 射程内に深く引き込んだ敵部隊に対して猛然と突撃を開始する。

 たちまちスッチャカメッチャカな乱戦模様。

 

「待たんかいワレ!!」

 

 そんな中でもひたすら私だけを追っかけてくる難儀な方がおりました。

 

「ほほう、隊長だけありまして一番しつこいですねえ?」

 

 どうも、敵のフェニホとの一騎打ちに流れでなっちゃったようで?

 周りの状況を無視して挑んでくるあたりが流石と言うか馬鹿と言うか・・・。

 

「やかましいわい。待ち伏せなどと言う姑息な手を使う連邦の犬が!!」

 

 外部スピーカーをオンにして罵るのはどうかと思うのですが?

 隊長と言うだけあってなかなかに手強いようですねえ。

 今んところは互角です、ハイ。

 

「さあ?勝手について来て、勝手に罠に嵌って、勝手に罵る人に言われたくは無いんですがねえ?」

 

 正論でとりあえず返してみる。

 

「やかましいわい!人の土地に土足で入り込んで来るような真似しくさって!!」

 

 いやあ〜何とも期待通りの素晴らしい回答です。

 こういう人は遊びがいがあります。

 

「なるほど〜人の所の惑星に踏み込んで荒らしているのを棚に上げての発言とは、いやはやご立派で涙が出ますな。」

 

 今度はあからさまな揚げ足取りをしてみよう。

 

「ふん、もうすぐ我らの物になるんじゃい。文句たれるな!!」

 

 ワ〜オ!

 ちょいと奥さん。

 自分で振っといて何ですが期待通りに逆ギレしましたよ?

 

「ふ〜ん、それはそれは知りませんでしたねえ?」

 

 会話しながらもLLとMLをフェニホに容赦なく叩き込んでゆく。

 お!?何かぶっ壊したみたい?

 煙吹いちょる吹いちょる。

 元がカメレオンとはいえフェニホの対抗機として改造しまくったのは伊達ではない。

 

「ぐっ、本当にそいつはカメレオンなんかい!?」

 

 機動力でも火力でも互角の戦闘を繰り広げる脅威の元練習機に率直な反応を返してくる。

 こりゃ単に単細胞なだけなのかな?

 

「ま、ジャンケンで負けたから乗ってるんだけどね。正真正銘元カメレオンだよ?」

 

 カードゲームなら負けなかったのに・・・。

 大貧民とかポーカーとかなら一人勝ちする自信ある。

 

「違法改造機め、メーカーに訴えたるわい!!」

 

 わあ、言うに事欠いて何たる迷言。

 数多のメック戦士に対しての暴言他ならないねえ・・・こりゃ。

 

「さいですか、どうぞ勝手にやってください。」

 

 さてはて、こんな相手にチンタラ戦うのも飽きてきた。

 部下がジェンナーを1機潰したのを確認する。

 ん〜真打ち登場はそろそろかな?

 

前線基地への通報はすでに終えている。

 指定ポイントにそろそろ増援部隊が到着する頃合だ。

 横目で時間を確認しながら引き際のタイミングを計る。

 

「おっまたせ〜!!」

 

 場違いな緊張感の無い声がお空の彼方から降ってくる。

 レパード級の影が通過したのと同時に4つの影が舞い降りる。

 それらは戦場が見渡せる小高い丘に着地した。

 肩に大砲担いだ非常に特徴的なシャドホを目にした敵の動きが止まる。

 真打ち登場。

 で、バトルのお開き決定。

 

「遠里七里、僭越ながらこの喧嘩に殴り込んじゃって宜しいでしょうか?」

 

 破壊神降臨と言ったところでしょうかね?

 その肩の大砲で一体どれだけのメックを撃破したことやら・・・。

 撃破した総トン数ならすでにオーバーロード級を超えてるかもしれない。

 寝返り組ながらも18歳にして戦果と実力ですでに大佐。

 

「七里さん、聞いても律儀に返事を返して来るわけ無いですよ・・・。」

 

 頭抱えながら突っ込みを即座に入れてるのはサリアだ。

 彼女以外は天然かボケしか揃っていないこの小隊の突っ込み役という重要な人材だ。

 

「サリアお姉ちゃん。その辺はお約束だから突っ込んじゃ駄目だよ?」

 

 突っ込みに突っ込みで返したのは、しっかりしとるのかボケとるのか今一ハッキリしない天野姫花。

 11歳ながらもサリアの教官と小隊指揮官としての実績がある。

 今回もお駄賃貰っての参戦。

 

「ええと・・・頑張ります。」

 

 サリアの影にこそこそ隠れているのはアルビノで屋外では昼間はメックから出てこない鉄はるか。

 虚弱体質でも腕前は一応エース。

 今回は家事手伝いで参加。

 狼小隊のエースが上から4人も集まっている豪華な小隊。

 こんな規格外だけ集めた連中に喧嘩売られたくなど無い。

 

「な、何でこんな連中が一山ナンボ風に降ってくるんじゃい!?」

 

 敵の隊長がキレてこちらに喚き散らす。

 図らずも律儀に回答とリアクションを返している。

 そんな事言われてもねえ・・・。

 まあ、単品でも化け物な戦闘力があるし、愚痴が出るのも無理ないか?

 

「ん〜暇だったんじゃないかな?ほら、君らは彼女らを見ると逃げまくるし?」

 

 毎度の如く敵が寄ってこなかったので暇だったみたい。

 

「横殴りなど御免だ!!」

 

 さっきまでトコトンやってやるモードだった奴が急に反転して逃げの体勢に移る。

 背後からの砲撃など気にしている暇は無い。

 さっさと逃げないと墓の中へ一直線だ。

 慌てて逃げる敵に適当に砲撃を撃って恐怖を煽りまくる。

 ま、当りはしないだろうがね?

 

 ボボン!!

 

 あっ!?

 この距離でジェンナー沈んだ。

 あいつらこの遠距離で普通当てるか?

 むう、見なかったことにしてしまおう。

 そうこうしている内に距離は離れて戦いはお開きとなった。

 

「そろそろ引き上げないと夜が明けるな。」

 

 夜が明ければ厄介な戦闘機が上をうろつきだすだろう。

 部下を纏めて引き上げの準備にかかる。

 まあ、彼女らがいれば気圏戦闘機も寄ってこないだろうけどね。

 爆装して襲撃をしようものなら、まず間違いなく吊り下げてきた爆弾を撃ち抜かれて花火になるであろう。

 現に何回かその光景を直に見ているので笑えない。

 

「ええと、お疲れ様でした。」

 

 脇に寄ってきて律儀にメックでおじぎしているのは鉄はるか。

 なんでか知らないが子供にはなつかれるんだよなあ・・・。

 

「いえいえ、はるか様もお出迎えご苦労様です。」

 

 この子は雇い主の養子なんだよね。

 私ら傭兵だからなつかれてもねえ・・・?

 まあ、悪い気はしない。

 いざ戦闘ともなれば彼女も頼りになる。

 てか、子供が戦場でエースになってるこの部隊は何なんだ?

 人手が足りないのは解るけどさ・・・。

 なんというか戦場を転々としていた私が、この戦場に長く居座り続けている理由の一つがこれだ。

 

なんかこいつらホットケナイ。


inserted by FC2 system