『はるかなる遠き星にて(中編)』

 

 姫ちゃんは元気に「ごちそうさまー♪」

 メイドマニアの橘大尉は手を合わせて「馳走になった。」

 彼のメイドのカトレア伍長は丁寧に「おそまつさまでした。」

 で、俺は普通に「ごちそうさま。」

 

 昼食でもあるお弁当は気合の入った重箱5段合体であり、ちょっと二人で食べるのには多すぎたようだ。

 それもそのはず、本来は他の妹達や婚約者のセレスと一緒に食べる予定だったのだが、相次ぐトラブルで姫以外は全員来れなくなったのである。

 まあ、新しい哨戒用の拠点予定地の視察に行くついでに羽伸ばしというものだったので、仕方が無いといえばそうなのだがなんだか寂しい。

 仕方が無いのでたまたま近くを自主的に哨戒、もといデートをしていた自分のところの居候、橘大尉とカトレア伍長さんにわざわざご足労してもらったという訳だ。

 やっぱり食事は賑やかに食べた方がやはりおいしく感じる。

 二人仲良くデートしているところを邪魔してまで呼んだかいがあったというものだ。

 もっとも、姫ちゃんが誘った事にしてあるのだ。

 この二人もこの子の誘いなら断らないし、恨まないだろうからねえ。

 

 それはさておき、そろそろ帰り支度でもしよう。

 あまり帰りが遅くなるのは姫ちゃんの教育上良くない事だしな。

 それに、橘大尉といると姫ちゃんにメイドの服を着せたがるし・・・。

 橘大尉は付き合いも長いし、悪い奴ではないし、それに姫ちゃんのメイド姿自体もかわいいのではあるが・・・他の妹達の視線が痛い事になるからだ。

 妹達の不評を買う事態、それだけは避けたいのが本当のところである。

 さっさと、近くの林に隠してある愛機に乗り込み帰るとするか・・・。

 

 「よっと、保安コード入力、神経感応ヘルメット接続、エンジン始動、アイドリング状態へ移行、機体状態再チェック全機能オールグリーン。」

 

 古参の部類に入る自分であるが、始動シークエンスは声に出して確認しながら行なっている。

 今は亡き師匠に基本が一番重要であり、基本の中にこそ生き残る為に大切なモノがあると教えられたからだ。

 とりあえず、まだ開けっ放しのコックピットから他の機体の状況を見てみる。

 自分と同期の古参兵である橘大尉の真っ黒々のブラックハウンドはすでに起動しており、既に周辺の警戒に無意識のうちに移っているようだ。

 カトレア伍長のブラックハウンドの近距離戦用改造機アンヴァインドーザーもすでにアイドリング状態に入っている。

 さすがに二人とも歴戦のつわものだけのことはある。

 で、今やっとエンジンを始動させたのがうちの部隊で最年少メック戦士の姫ちゃんだ。

 まだ11歳になったばかりの女の子を戦場に引っ張り出すのは自分でもどうかと思っているのだが、本人が決めた事だからしかたがない。

 もっとも、実力の方は見た目だけで判断は出来ない。

 これでも彼女はエースの一人なのだ。

 普段、相棒にしているアトラスの改造機「神威」の性能が優れている事を差し引いても彼女の実力はベテランの域に達しているといえる。

 現在までに倒したメックの数が100機を越えている事がその証拠であろう。

 いつもは頼もしい相棒と共にエネルギーが渦巻く乱戦に飛び込んで行く彼女であるが、今彼女が乗っているメックはいつも乗っている相棒ではないので起動させるのに手間取っているようだ。

 彼女の相棒は今現在俺の婚約者であるセレスがC整備のオーバーホールしている最中なのだ。

 あいつめ、よりにもよって自分を整備する者を指定してくるとは何て奴だ。

おかげでセレスを連れて来れなかったという訳だ。

 まあ、以前は内部構造まで触らせようとしなかった事を考えると大きな進歩ではあるが・・・。

 完全自立型人格と限定的自立戦闘能力を有し、乗り手を選ぶ厄介なバトルメックなんて他には自分のところ以外無いであろうが。

 

 ともあれ、整備中の相棒の変わりに用意したのが予備機のブラックハウンドなのだが、来る時にすでに乗りこなすコツを覚えてしまったらしく到着する頃には完璧に乗りこなしていた。

 機種転換には時間がかかるのが普通なのだが、この辺はもって生まれた才能と異常なまでの吸収力、そして何より時々自分の機体に乗せていた事が関係しているらしい。

 自分の機体もブラックハウンドなのだ、正確にはそのモドキであるが。

 頭部とシャドホの系列機を改造加工してブラハンに準じたものにし、胴体にいたってはウルヴァリ−ンをバーグラーに改造したものを更に改造して使用している。

 中枢の違いや部品の兼ね合いも超上級テックの婚約者が改造を設計段階から携わった為か、今まで問題を起こした事が何もなかった。

 今では正規のヴァリエーションとしても通用するだけの信頼性があり、データ的にも証明して見せる事ができる。

 愛機は確かに性能的には間違いなくブラハンそのものであり、問題があるとすればその名前か・・・。

 ともかく婚約者はネーミングセンスに関してだけは絶望的に無いのだ。

 

 改造機第一弾、シカダ改造機「トットコ丸」(改名してセプトハンターになる)

 改造機第二段、ライフルマン改造機「つるべ君」

 

 そして、改造機第三弾が愛機である「ぴょんぴょん丸」となる。

 

 あと、改造機第四弾に「一発王」なんてのもある。

 

 もう勘弁してくれ〜(泣)

 しかたないので我慢していたが、無塗装の燻し銀のままで狼のパーソナルマークを描いといたのが功をしたのか、敵からは「銀狼」というなかなか良い名前を頂いている。

 この際だから密かに広めて既成事実化して改名してしまおうかとも企んでいたりするのだが・・・。

 

 「コックピットハッチ閉鎖、各種センサーON、エンジン、アイドリングから通常モードへ移行、間接ロック解除、マイアマ−への電力供給を開始。」

 

 そんな事をいろいろ頭の中で考えつつもうたた寝状態の機体をテキパキと眠りから覚まして行く。

 

 「全機能起動確認、起動完了。」

 

 眠りから完全に覚めた愛機を立たせながら周囲の確認を一通り再確認する。

 

 「よし、絶好調だな。」

 

 愛機は昨日オーバーホールが終わったばかりで調子が良い常態だ。

 どうやら姫ちゃんもメックの起動させるのを終えたらしく、機体を起こし始めている。

 あとは暗くならない内に我が家へ帰るとするか。

 

 続く

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