『はるかなる遠き星にて(後編)』

 

 帰り道、敵の待ち伏せを受ける事になったがこれを看破、逆に奇襲を仕掛けた。

 敵は民生機が多数、バトルメックが1小隊程度である。

 

「橘、機種は解るか?」

 

 戦闘機動を続けつつ交戦相手の正体を探る。

 こういう時はメックに詳しい彼に頼る。

 

「バトルメックの方は機種はD型マローダ、エンフォーサー、ライフルマン、ウォーハンマーだと思う。」

 

 そこそこの重量がある機体が揃っている敵らしい。

 だが、過熱傾向がある連中ばかりだな。

 

「民生機の方はザムを8機確認している。合流されると厄介だ。」

 

 ザムタイプは民生機で貧弱な火器と装甲しか持っていない。

 片っ端から遠距離で落とす自信はある。

 ただ、まともなバトルメックと連携されると結構厄介だ。

 

「ならば一気に叩くまでだ。」

 

 決断は早かった。

 まずは一番近くの隠れているつもりの2機のザムから片づける。

 橘とカトレアは左のザムに狙いをつけたようだ。

 

「姫ちゃんは俺と組んで右の奴を叩く、絶対に傍を離れるなよ。」

 

 彼女はこういう機動戦闘は不慣れなはずだ。

 不安が残るので傍に置くのが一番だ。

 

「うん、お兄ちゃん。」

 

 こういう機動は初めてながらも付かず離れずくっついて来る。

 なんか彼女のブラハンの動きには見覚えが・・・?

 まあ、そんな事はいいか。

 

 偽装して待ち伏せている2機のザムは愚かにもまだ動かない。

 

「練度が低いな・・・対応が遅すぎる。」

 

 やっと待ち伏せが失敗したと気づいたらしくこちらにACの砲身を向け、立ち上がろうとする。

 

「マヌケが、今ごろ慌ててもすでに遅い。」

 

 俺は、素早くPPCをマヌケなザムの鼻先に叩き込む。

 ほぼ同時に姫もPPCを発射し直撃させた。

 よろけて倒れるザム。

 

「まずは一機目、橘、油断するなよ!」

 

 さらに距離を詰め、攻撃をMLに切り替え、倒れてもがいているザムに止めを刺した。

 横目で橘達の方を確認すると同様に敵を葬るところだった。

 

「ああ、まだまだ敵はいるんだ。暴れてやろうぜ!」

 

 橘は次なる目標に向かって機体を回頭させ、即座に移動を開始する。

 

「姫ちゃん、相手が雑魚だからといって油断だけはするなよ。」

 

 背後から自分の後を追っかけている妹に一言釘を刺しておく。

 慢心こそが戦場において最大の敵である。

 

「うん、解っている。」

 

 素直に聞き入れる末の妹。

 そもそも、この子には慢心するなんてあるのか?

 素早く次の目標に移動しながらそんな考えが頭をよぎる。

 手近な阻害地形の森に篭っていたザムを4人で蹴り殺し、その場所を奪取。

敵の射線を阻みつつ、素早く情報を確認し、戦況を把握する。

むろん、攻撃の手は弛めずに技量を生かした遠距離砲撃で打撃を与えている。

 パニック状態に陥り、バラバラに反撃してくる敵機を一機ずつ、確実にしとめる。

 射程内に逃げ損なったザムが転がりでてきたので素早く狙いをつける。

 

「喰らえっ!!」

 

 狙い違わずどてっ腹に4本のPPCが炸裂した。

 全員が直撃弾を叩き込んだ証拠。

 致命傷ゆえにもんどり打って倒れるザム。

 戦況は完全にこちらのペースだ。

 敵は各個撃破を避けるべく集結しだしている。

 

「そうはいくか。」

 

 橘達に目の前の敵を任せ、合流しようとする集団に牽制をしかける。

 自分が攻撃されるとは思っていなかったのか、牽制された集団は狼狽していた。

 近場の森に逃げ込んで攻撃を凌ぐ事を選択したようだ。

敵の合流を阻止し、遊兵にする事に成功した事で戦局はこちらの優勢になる。

 すでに目の前のザムは橘達に片脚を蹴り折られていた。

 

「これで4対8だ。」

 

 敵はあっと言う間にその数を減らしていった。

 包囲戦術は確かに魅力的な戦術の一つである。

 ただし、優れた火力と機動力を駆使すれば各個撃破される可能性もある。

 敵の指揮官は数を頼みにした包囲戦術を展開しただけだった。

 ドラコ連合の人材不足はかなり深刻な域であると思えた。

 だが、それよりもさっきから疑問に思っている事がある。

自分とほぼ同じ動きをしている妹だ。

 さっきのザムを葬る時に気づいたのだが、俺の動きを見て即席でコピーしているらしい。

 ゆえに機種転換訓練なんかやっていないはずなのに見事なまでの戦いぶりだ。

 

「機動力はこちらが上だ!引っ掻き回せ。」

 

 前進してザムを一機叩いた後、全機後退して距離をとる。

 練度の低い民生機達はそれにつられて陣形を崩してまで追いかけようとした。

 

「よし、突出したものから叩いてゆくぞ!!」

 

 慌てて追いかけようとした先頭のザムに狙いをつけてPPCを叩き込んだ。

 部分遮蔽して応戦していた敵のライフルマンがフォローに入ったため、落とすまでには至らなかったがかなりの損傷を与えた。

 その証拠にフラフラと後退してゆく。

 これで4対7だ。

 

「どノーマルのライフルマンごときが前に出てくるんじゃない。」

 フォローに入った結果、突出する羽目になったライフルマンにMLを叩き込んだ。

 他の機体からの射撃も合わせて都合16本のMLが突き刺さる。

 たまらず後退を開始するライフルマン。

 その最中に今度はPPCを喰らい左手まで失った。

 そそくさと戦闘エリア外に離脱しようとするライフルマン。

 さらにPPCで追い撃ちをかけてやり、もう片方の腕も使い物にならないように変えてやった。

 こうなればもう戦力外だ。

 

「ヨウナシカエレ」

 

 敵も味方も両腕が無くなり、装甲もボロボロのライフルマンに興味が無いらしい。

 邪魔になるからさっさと戦場という舞台から引っ込めという心情である。

 その後、完璧にシカトされたライフルマンは戦場から離脱していった。

 敵はこの時になって混乱が収まり始めたらしく果敢に反撃に出てきた。

 が、大半の機体は及び腰で距離が離れており命中弾はあまり無い。

 逆に遠距離での砲撃戦では一方的に負けている。

 森に立て篭もっていたザムが火柱を上げて仰向けに倒れて花火となる。

 部分遮蔽をされた方が動きまわらない分狙い易いと思える今日この頃。

 ワンサイドゲームの長距離砲撃戦でさらにエンフォーサーが後退する羽目になり、敵は積極的に前進して向かい撃たねば勝利もおぼつかない有り様だ。

 

「ここらで決めるぞ、俺が他の相手にするからウォーハンマーはそっちに任せる。」

 

 俺と姫は残ったマローダと2機ザムと交戦に入る。

 双方とも距離を詰めようとしたので一気に接近戦となる。

 

「橘様、援護をお願いします。」

 

 カトレアのアンヴァインド−ザーがウォーハンマーと殴り合いの距離に突入する。

 勝負どころは今をおいて他にない。

 

「任せろ。」

 

 それに合わせてPPCとMLを加熱無視で撃ちまくる橘。

 援護を受けながらカトレアは敵の懐へ飛び込んで行く。

 ウォーハンマーはこれ幸いと格闘距離にカトレアを引き込んだ。

 接近戦なら重量差で負けない自信があるからだ。

 相手が普通のブラックハウンドならそうであろうがカトレアの機体はアンヴァインド−ザー。

 接近戦に特化させた駆逐機だ。

 普通に遠距離でPPC撃って走り回っていれば通常型と見分けがつかないのが特徴。

 

「申し訳ありませんがこの場からお引取り願います。」

 

 インファイトの距離でウォーハンマーが見たものは8門のSLと7門のMGの雨あられとミドルキックである。

 カウンターでウォーハンマーが放ったパンチは見事にブロックされて防がれている。

 ウォーハンマーがあまりの損傷に接近戦を続ける事に躊躇いを感じている。

 こういう叩き合いになるとブラハンの厚い装甲が有利に働く。

 敵はすでに中央胴の装甲があらかた剥がれ落ちている。

 

「カトレア、押し切れ!!」

 

 距離を詰めて援護をする橘から指示が飛ぶ。

 戦機を掴んだのなら放さないのが一流の証。

 

「橘様、承知いたしました。」

 

 慌てて距離をとろうとするウォーハンマーに対してアンヴァインド−ザーは追撃をかける。

 

 ウォーハンマーはあっさりと戦闘不能に陥った。

 緊急脱出装置の作動を確認すると、橘達はそれを意識外に放置したようだ。

 他の連中を相手にしている俺達はというと・・・。

 

「「旋風双連撃!!」」

 

 見事なまでの格闘14連撃を喰らってマローダは沈むように格座した。

 長期戦を嫌って、一気に左右から同時に格闘戦を仕掛けた。

 乱舞に近い格闘攻撃で一気に押し切ったのである。

 最初に踏み潰し攻撃。

 次に正拳、裏拳、飛び膝蹴り。

 最後に右ストレートから左の掌底、そして止めのかかと落としのメニューを全部左右から同時に叩き込んでいた。

 

「ボコボコだねえ・・・。」

 

 格座させた張本人である姫自身も少しやり過ぎたかもと思っていた。

 俺はともかく、乗り換えたばかりの姫ちゃんまで尋常じゃない動きをしている。

 橘も余り見たことが無い珍しいメックの格闘技のオンパレード。

 その威力は上半身と両手がボコボコにへこんでいるマローダが体現していた。

 残ったザムはバトルメックが倒された事で戦意喪失し、撤退しようとしている。

 

「追うな、距離を開けて逃がしてやれ。」

 

 カミオンはJJで素早く遮蔽地形へ後退するとPPCで形だけの応戦する。

 戦果は充分だ。

 欲をかき過ぎるとしっぺ返しを喰らう可能性がある。

 なら、後は損害を抑えるだけである。

 

「うん、解った。お兄ちゃん。」

 

 素直に下がる姫ちゃん。

 

「解った、カトレア下がるぞ。」

 

 ちょっと暴れ足りず欲求不満な橘。

 だが、彼も指揮官の一人なので引き際は心得ている。

 

「かしこまりました、橘様。」

 

 主人の傍に静かに下がるカトレア。

 

「よし、上々だな・・・あっ!?」

 

 後退も上手くいって上機嫌だった俺は素っとん狂な声をあげていた。

 

「ごめんなさい、大破させちゃったみたい・・・。」

 

 視線の先には胴体に大穴を開けられて倒れこむザムの姿があった。

 牽制程度に放っていたPPCが運悪く直撃したようである。

 犯人は姫ちゃんらしい。

 って、いうかこの距離で当てるのか?

 

「事故だ事故、見なかったことにしよう。」

 

 橘はラッキーヒットと言う事で脳内処理したらしい。

 生き残りのザムはもはや背を向けて逃げてゆく。

 脆弱な背中を敵に向けて逃げる様は壊走に近い状況だ。

 よっぽど恐ろしかったらしい。

 

「そうだね。事故だ事故。」

 

 気を取り直す俺。

 

「ご愁傷様・・・。」

 

 カトレアも呆れているようだ。

 

「ええと、あの・・・。」

 

 どうしたらいいのか解らずオロオロしている姫ちゃん。

 

「お疲れ様、姫ちゃん。」

 

 カミオンは苦笑しながらフォローを入れる。

 

「ま、初めて乗った機体であれだけ戦えるのなら大したもんだ。」

 

 橘は妙な納得の仕方をしている。

 

「流石です。」

 

 簡潔だがカトレア表情は柔らかい。

 

「うん、ありがとう。」

 

 褒められて素直に嬉しいようで照れている姫ちゃん。

 

「さてと、では帰りますか?」

 

 近くの部隊に連絡をとり、後処理を引き継がせて帰路に着く。

 今日の戦利品はなかなかの稼ぎにはなったらしい。

 

 その夜、回収した戦利品の使用の算段を立てている最中に騒ぎが起きた。

 今回の撃墜賞を取った姫ちゃんが倒れたのだ。

 格納庫にメックを固定し、機体から降りたところでぶっ倒れたのだ。

 相当無理をしていたらしい。

機種転換訓練も無しにあれだけ動けば当然そうなるわな。

 原因は過労。

慣れない戦闘で体力的にも精神的にも限界だったらしい。

 今は医務室に運び休ませている。

 当然基地は大騒ぎになり、セレスから俺は大目玉を喰らう事になる。

 結果としてカミオンは、丸一日疲れて眠っていた彼女に罰として付き添う事になった。

 まあ、俺にとっては罰なんだか微妙ではあるのだが?

 

 お終い

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