「ツバクロ騒動第1話」
「入手した敵作戦の情報は本当にコレで間違い無いのか?」
総司令たるカミオンの手元には敵の次の作戦についての資料が並んでいた。
情報原は懐柔済みの敵工作員から食堂のオバちゃんの噂話に至るまで様々だ。
当然、信憑性や精度等も差があるのだが今回の話は別だった。
『メックや工作員を総動員して敵基地の燕の巣を破壊する。』
正気の沙汰とは思えない内容だが正式な作戦らしい。
以前にも動物園を襲撃してペンギンを食べようとしたり、松林を占拠して松茸を根こそぎ持っていこうとしたような連中だ。
燕の巣とは、どうも愛娘が熱中している燕の巣らしい。
最初は敵の指揮官はアホかと思ったのだが考えてみると意外と合理的だ。
あの燕の巣に興味があるのはどいつもこいつも戦力の要ばかり。
それも、やる気で戦果が激変するような連中だったりする。
困った事に破滅の三重奏と呼ばれた撃墜王が三人ともご執心らしい。
壊されたら士気が確実に急落するのは目に見えている。
結果として戦局が傾く事になりかねない事態だ。
こちらの戦力を削ぐのにこれ以上の手は無いといえよう。
敵の指揮官は馬鹿と天才紙一重の存在なのだろう。
それに対抗しようとしている自分も同格なのだがこの際考えない事にした。
「基地内の警備の強化が必須だな。」
工作員の侵入する隙を少なくするだけでも阻止効果は多少あるだろう。
とはいえ、よく考えればこの手の問題は大騒動に発展する傾向がある。
ペンギンの一件の時には強襲級まで投入した大会戦に発展した。
松茸の時は敵の放った火で森全体が煙で充満し、敵味方が入り乱れて大乱戦となった。
ペンギンの一件では防衛には成功したものの、施設に多大なる被害が出ている。
経験則からして半端な戦力を防衛に当てるのは非常にまずいような気がする。
「状況が状況だな。戦技教導隊が主力になって防衛に当れ。」
たかが燕の巣に対して鉄壁の防御陣を敷く。
それも一線級のメックばかりで構成された部隊を中心にである。
第三者から見ればアホな事この上ない争い事であろうが・・・。
「それと、対工作員部隊と警備部隊にも出動を要請しろ、狩りの時間だ。」
どうせ敵の工作員が侵入して来るのならばこの際だ。
狩れるだけ狩ってやるのがこっちの礼儀というものであろう。
「アレス条約で禁止されている物以外の全兵装を使用して構わん。費用は部隊で持つ。」
黙々と各部署へ必要な書類を書いていた副司令の妹が顔を上げてこっちを見ている。
基地施設への被害が出た場合はどうするのかと無言で訴えているのだ。
「相手がDESTであった場合を考慮すれば多少の損害は目を瞑るつもりだ。」
人を殺す事に長けている連中相手に遠慮や躊躇は命取りになる。
過去に幾度となく交戦した事があり、その脅威は身をもって知っているつもりだ。
いざとなれば施設の一つや二つをふっ飛ばしてもお釣が来る計算である。
と、いうか過去に前線基地を一つ丸ごと奴らの墓場として提供した事がある。
つまるところメックは代えが利くが、人材というものはそうはいかないからだ。
妹はちょっと不満そうだが通達する書類は次々と書き上げられてゆく。
「そういう事で細かい点については彼に任せると言う事で決まりだな。」
妹はすでに誰にこの案件を任せるのか察しがついたらしく頭を抱えている。
彼は実力もあり、任務は達成するものの、損害費用が馬鹿にならないので有名だった。
この場合、目標達成が第一であるので別に問題とはならないと判断した。
一方の経理も担当している妹の負担は増えるのは言うまでもない。
どうも、費用のやりくりで苦労する羽目になる妹の不況を買ってしまったようだ。
この日一日中、苦労性の妹は口をきいてくれなかった。