「ツバクロ騒動第3話」

 

「どこからこれだけ掻き集めて来たんだか・・・。」

 

 燕の巣を護る為に幾重にも敷かれた防御陣地。

 要所に配備された大量の戦車や歩兵。

 それに強襲級を多数含むメック部隊。

 敵の工作員の侵入を阻む軽戦車と戦闘外骨格を来た警備兵が基地内を巡回。

 警戒センサーの類も倍にされ、敵の急襲に備えている。

 空爆に対しては、ライフルマン等の対空メックが空への睨みを利かせている。

 保険として、シルフィードを始めとする気圏戦闘機も待機済み。

 その他、雑多な予備戦力も集結していた。

 

 まさに他の惑星なら総力戦の決戦前夜の様相である。

 総司令のカミオンは心の底から呆れていた。 

 

「海賊友の会を動かしたのは七里だな・・・。」

 

「豊作」とか「有機農法実施中」等と書いてあるメックは銀河中探しても彼らだけであろう。

 

 彼らの大将が乗る破壊神アトラスには「目指せ農家の星!」とキッチリ書かれている。

おかげで見間違いないと確信できる。

 

「あっちは市民軍か?師団規模で展開させてるし・・・。」

 

 一時は壊滅状態だった彼らを建て直し、装備を与えた者がいた。

 その一人が部隊の財政を担当している妹の瑠璃である。

 彼女の依頼でこの地に展開しているのだろうか?

 地元の地形に精通している市民軍は防衛戦では非常に頼もしい存在だ。

 それにメックや豊富な携帯火器を有する彼らは今や二線級ではない。

 舐めていると袋叩きにされて瞬殺である。

 

「おいおい、オライオン装甲騎兵隊は正規軍だろう。」

 

 色彩が統一されており、周りから少し浮いている一団がいた。

 錬度不足の恒星連邦において、数少ない叩き上げの正規軍。

 部隊を構成する人員のほとんどがベテランである。

 彼らは各所に配置された大量の砲撃戦メックと戦車は彼らが持ち込んでいた。

 おそらく末っ子の姫ちゃんが頼み込んだのであろう。

 戦場でも戦技訓練でも、あの子とあそことは交流がある。

 

「・・・乗り手がいないはずの四脚メックや鎧竜グララモスまでいるし。」

 

 四脚メックは乗り手が決まらず放置扱いだったはずだ。

 でも、しっかり動いているし、魔改造の跡も見える。

 しかし、あの動きはどこかで見た記憶がある。

 それに鎧竜グララモスにおいては、基地内に住み着いている奴は元より近隣の野良まで

ご苦労な事に集結しているようだ。

 他にも野生生物が結構いた。

 こいつらを自在にご利用できる奇特な存在。

 心当たりは確かにある。

 

「あ、お父さん。」

 

 狼の耳と尻尾付きの服を着込んだ小さな女の子がヒョッコリ現われた。

 カミオンの愛娘の遥である。

 よほど嬉しいのか、慌ててすぐに駆け寄ってきた。

 

「遥が頑張ってるって聞いたから、ちょっと様子を見に来てみたんだ。」

 

 小さな頭を撫でてあげると彼女は嬉しそうに笑った。

 太陽のような眩しい笑顔とはこういう事を言うのだろう。

 もっとも、当の本人は夜にしか外を自由に出歩けないのであるが・・・。

 

「えへへ、みんなと一緒だから平気だよお父さん。」

 

 娘は愛犬のピョンピョン丸を抱きながらニコニコしていた。

 よく見ればいつも遊んでいるグララモスも傍にいる。

 それに、この四脚メックも傍に護るように立っている。

 ・・・?

 そういえば、いつもの仲良しアニマルが一匹足りない。

 

「・・・遥、一つ聞いてもいいかな?」

 

 4つ足を持つ遥といつも一緒の大型生物。

 まさかとは思うが・・・。

 

「なあに?お父さん。」

 

 突然の父からの質問に遥はキョトンとしていた。

 

「これに乗ってるの・・・まさかとは思うがヒミツヘイキか?」

 

 四脚メックを指差して娘に質問する。

 どうも動きがアレに似ている。

 

「うん。そうだよ。」

 

 娘は屈託の無い笑顔でそう答えてくれた。

 それが継承戦争という長い歴史において前例の無いことだというのに・・・。

 

「ヒミツくんはメックの扱いがとても上手なの。」

 

 誇らしげに自慢する娘。

 世紀の新事実の発見。

 そんなにアッケラカンと言われても困るものである。

 まあ、基本は脳波コントロールだから馬でも操縦は不可能じゃないだろうが。

 それに、人間では扱いの難しい四脚型だが、同じ四脚の馬なら相性がだろう。

 それよりも、誰だ馬用の操縦席を開発したのは?

 

「・・・どうしたの?お父さん。」

 

 よほど変な顔をしていたのだろう。

 娘は心配して顔色を覗き込んできた。

 

「他にもメックに乗りたいお馬さんがいたら教えて欲しいかな。」

 

 頭を撫でながら娘に笑ってみせる。

 遥は目をまん丸にしてこちらを見ていた。

 

「うん。」

 

 遥は疑問も持たずに素直に頷いてくれる。

 四脚メックはともかく人気が無いので数が余っている。

 そして、こっちはいつも人材不足に悩んでいる。

「こうなれば人間でなくても良いや」という考えは末期的なのだろうか?

 とはいえ、連携戦闘には問題がありそうなので限定的な運用にはなるだろうが・・・。

 

「頑張りすぎてみんなに心配をかけないようにするんだぞ。」

 

 ともかく、その話は横においておく事にした。

 今は娘の体調の事の方が心配である。

 虚弱体質のアルビノなのに人一倍頑張る性格だからだ。

 長丁場になれば疲労の蓄積で真っ先に倒れかねない。

 

「む〜、お兄ちゃんもお父さんと同じ事を言ってる。」

 

 どうも、久遠にも同じ事を言われていたようだ。

 遥は頬を膨らまして不満顔をしている。

 感情を隠さないでコロコロ表情が変わるあたりが実に遥らしい。

 

「いつも無茶をして久遠を困らせているだろう?」

 

 先ほどまでの不満顔はどこへやら。

 そう言われて途端にショボンとする遥。

 

「あの、その、ごめんなさい。」

 

 この子は、自分以外の誰かの為なら限界を超えてでも頑張りすぎてしまう。

 この一点だけが遥に対する周りの心配の種となっていた。

 それさえどうにかなれば手のかからない子ではある。

 本人も無茶をしている自覚はあるのだが、遥は毎度のごとく繰り返してしまう。

 この点に関しては頭の痛い問題として久遠と話し合したこともあった。

 

「ま、みんなと一緒なら大丈夫だな。」

 

 遥の頭をグリグリと撫で回す。

 怒られるかと思っていた遥は目をまん丸にしてキョトンとしている。

 しばらくこちらを見上げていたが、やがてまた笑顔を見せてくれた。

 やっぱり遥は、ションボリ顔より笑顔の方が似合っていると思う。

 仕事の合間に来た甲斐があったというものだ。

 いつまでもこうしていたかったが、そうもならないのが今の立場だ。

 そろそろ、仕事に戻らなければならない。

 

「えっとね、お父さん忙しいのに心配して見に来てくれてありがとう。」

 

 いつも仕事で忙しいのを遥は知っていた。

 暇さえ見つければ娘のところに顔を出している事も知っている。

 だからこそ、少しでも一緒にいたいのが本心であろう。

 それが寂しいという感情で顔に出ている。

 

「ああ、それじゃ仕事に戻る。」

 

 少し後ろ髪は引かれていたが仕方が無い。

 この様子ならば問題は無いだろう。

 むしろいつもより安定しているくらいだ。

 軽く手を振りながら仕事に戻る為に歩き出す。

 遥は、こちらが見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。

 グララモスは尻尾を振り、四脚メックは稼動する砲台を手の代わりに振っていた。

 なんだろうなあ。

 この珍風景は・・・。

 

 

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