「ツバクロ騒動第3話裏」

 

 

 「兄様、遥ちゃんはどうしてました?」

 

 司令室に戻ると瑠璃がそう尋ねてきた。

 彼女は病弱で、幼い頃からたびたび床に伏せる日々を送っていた。

 そのためか、遥にたいしては親近感があるらしくいろいろ世話を焼いていた。

 もっとも、尋ねられてどう答えてよいものやら少し考え込んでしまった。

 

「いつものように不思議動物に囲まれて元気にしていたよ。」

 

 彼女にとってはいつもの日常的光景なのだが・・・。

 常識的な視点の持ち主の彼女からすれば理解不可能な光景らしい。

 

「そうですか、兄様に似て不思議な子ですね。」

 

 敵を片っ端から引き入れて部隊を拡大した変わり者。

 彼女から見れば自分はそういう人間らしい。

 そういう彼女もこの程度の事では最近は動じなくなってきている。

 慣れというのは恐ろしいものだ。

 

「そうそう、乗り手のいなかった四脚メックが稼動してたぞ。」

 

 驚きの新情報を披露してやる事にした。

 じゃじゃ馬で開発した連中も放置した曰く付きの発掘品。

 それが今では立派に稼動している。

 

「?あれは乗り手の都合が付かなくてお蔵入りだったはずでは?」

 

 首を傾げる瑠璃。

 彼女の頭の中では、きっと乗り手の正体を取捨選択中であろう。

 

「ヒミツくんが乗っているそうだ。」

 

 あまり考えさせても知恵熱が出てしまうだろうから種明かしをしてみせる。

 

「はい!?」

 

 瑠璃の反応は予想以上に面白いものだった。

 口をポカンと開けて固まってしまったのだ

 それはそうだろう。

 メックは人間が乗るものだという大前提がこれまであったからだ。

 

「いやな、馬でも四脚なら扱えるらしいんだ。」

 

 人間と同じ脳波コントロールが可能なら馬でもいけるはずと説明した。

 むしろ、2本足の人間より感覚的には4本足の馬の方が適正があるらしい。

 そこまで説明すると瑠璃は金縛りが解けて頭を抱えて考え込んでいた。

 

「理屈的には理解できるのですが・・・その想像が付かないですね。」

 

 どうにもこうにも想像上の現実に彼女の頭は理解したくないらしい。

 

「あとで見に行ってくるといいよ。他にも面白いものが見れる。」

 

 悪戯っ子の気分で出来た妹にそう話しかける。

 

「今の話以上に何か面白いものでもあるんですか?」

 

 頭痛の種でもまた増えるのかと彼女の顔はゲンナリしていた。

 

「王家の近衛連隊とやりあえるくらいの戦力を集めたらしいんだな。」

 

 たかが、燕の巣の防衛にそれほどまでの戦力が集結するとは予想外。

 カミオンでさえ呆れるほどの光景なのだから瑠璃にとっては・・・。

 

「あ、悪夢だわ・・・。」

 

 と、いう結論になる。

 財務担当者から見れば無駄金を使い放題という風にしか見えないのであろう。

 まあ実際、そうなのではあるが・・・。

 

「ま、敵さんの出方次第だな。必要ならば俺もでるし。」

 

 困った事にそれでも敵もやる気であろうから一戦は交える事となるだろう。

 仕方の無いことだが、これには対応してやるしかあるまい。

 

「・・・頭の悪い戦場ですよね・・・ここって・・・。」

 

 彼女の頭脳から弾き出された結論がこれだ。

 肯定こそできるが否定はしない。

 

「そうだな。でも、国の大義の為に闘うよりはいいんじゃないのか?」

 

 好戦的な相手ゆえに衝突は多分避けられないのが情勢だ。

 それならば、何のために闘うのかが戦士にとっては重要となる。

 たかが燕の巣とはいえ、遥達にとってはとても大切な物なのだろう。

 くだらない大義名分のために命をかけるよりも有意義だと思える。

 ゆえに見た限りでは士気が病的に高かった。

 

 困った事だ・・・。

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