「ツバクロ騒動第4話」

 

 現場の指揮官を任されている久遠は副官の鳳花と対策を練っていた。

 まずは手駒となる戦力の確保から始める事にした。

 中核は自分の中隊と戦技教導隊だが数が足りなかった。

 戦力調達をどうするか思考していたところに彼らはやってきた。

 

『姉御が困っているんだから、この一件に俺たちも混ぜろ。』

 

 と、押しかけて居座ってしまった。

 断る理由はどこにも無く戦力欄に組みいれ決定。

 彼らは元海賊で今や農業集団の「海賊友の会」である。

 そいつらに姉御と呼ばれているのは撃墜王の遠里七里。

 彼らに自分の戦利品を横流しにしていた経歴がある。

 当然、彼らは彼女を心酔しきっており、彼女の親衛隊を自負している。

 戦力は重・強襲級メックが中心の1個大隊クラスであるので心強い。

 それもベテランぞろいの一線級ばかりの凶悪なメック部隊。

 正直、正規軍でもここまで装備が整っているのは極めて珍しい。

 王族の近衛隊とやりあっても互角以上異常に渡り合えるであろう。

 最大の課題だった部隊としての実働戦力は確保できたとして久遠は一息つくことが出来た。

 

 あくまでこの時点では・・・。

 

 その日の午後には、次から次へと参戦表明をする連中が押し寄せたため、その配置・待機シフトと部隊編成でてんやわんやの騒ぎとなっていた。

 

『お宅のところの先生に借りがあるから返しに来ただけだ。』

 

 と、語るのは恒星連邦の数少ない錬度の高い正規軍であるオライオン装甲騎兵隊指揮官。 

 姫先生には訓練の際によくお世話になっているらしく混成1個大隊規模での参加となる。

 ただ、前線から戦力を割く関係上、主力は戦車が中心となっていた。 

 そして、この戦場では友軍としては数が少ない恒星連邦謹製メックで武装している。

 彼らの参戦は誤射の防止策を考慮しなければならないマイナス面も存在している。

 しかしながら、軽支援砲のサンバー砲を装備する砲兵部隊も含まれているのは有難かった。

 

『クラノス市民軍は上層部より拠点防衛任務を命令されました。指示をください。』

 

 後方地域を担当する市民軍は歩兵を中心とする二線級部隊だ。

 参加規模は総戦力の半分である3個連隊規模で数の上では主力当たる。

 一般的な二線級部隊同様に歩兵と装甲車を中心とした部隊編成である。

 違いは切り札であるメック部隊の存在である。

 一度は大損害を受け、壊滅した経歴があるクラノス市民軍。

 再建に際して狼小隊は彼らに余剰メックの譲渡を行った。

 ゆえに一般的な正規軍よりも良好な装備を誇る2個メック中隊が存在している。

 この経緯があるので指揮権が狼小隊に預けられている。

 彼らの指揮権は後方部隊司令官を務める瑠璃副指令である。

 彼女が援軍として部隊を動かしてくれたようである。

 

『イスカンダールは2個飛行隊を持って支援にあたる。許可されたし。』

 

 気圏戦闘機だけで構成された異色の傭兵部隊であるイスカンダール。 

 彼らは完全2個飛行隊24機によるエアカバーを申し出てきた。

 ちょうど彼らの母艦が定期整備の為にドック入りするので艦載機が暇になっていたそうだ。

 それがたまたま遥と仲が良いマリエルのいる部隊であったため参戦する事になったらしい。

 とりあえずこれで空からの爆撃だけは避けられそうである。

 

『第4地方訓練大隊にも参加させろ。』

 

 恒星連邦の地方訓練大隊は現在3つ存在している。

 彼ら第4大隊は新設中にドラコ連合に強襲を受け壊滅。

 僅かな生き残りの生徒と教師達がこの地に逃げ込んできたのである。

 もっとも、彼らが持ち込んだ数少ない残存戦力は、姫先生との模擬戦で全滅している。

 現在は姫先生が部隊再編に尽力したおかげで一応2個中隊規模にまで回復している。

 とは言うものの、実際には各部隊からの訓練生と機体が一時的に組み入れられているだけである。

 彼ら本来の戦力は余剰品となっていたアーバンメックである。

 この場合、拠点防衛にはもってこいの連中である。

 

『遥はワシらの孫娘みたいなもんじゃ、手を貸すぞ。』

 

 退役した軍人から、非番の基地警備の連中もこぞって乱入してきた。

 アルビノの遥は、基地でのお留守番がどうしても多い。

 彼らにしてみればマスコット的存在の遥が今回やる気マンマンの状況である。

 参加しない道理はない。

 さっそく大量の各種警戒センサーを設置し始めている。

 パワードスーツの一種である戦闘用外骨格という敵の工作員からしてみれば嫌な存在がこうして久遠の手中に収まった

 

 その他にも「ピコピコポン」「愉快なるオダギリ一族」「メイド一番星」「ヘルシー和尚一人旅」

「銀河青果連合組合」「ホテル第三会議室」「窓際厩舎」等の小規模傭兵軍団も参加を表明。

 基地周辺に彼らの戦力がゾクゾクと集結するというガイアレス決戦前夜のような異様な光景が

広がっていた。

 

 

 

「・・・なあ鳳花?」

 

 その光景を必要書類の整理をしつつ呆れたように見ていた久遠が口を開いた。

 

「?・・・なんですか?」

 

 無言でせっせと必要書類を纏め、横にいる久遠に手渡していた鳳花が顔を上げる。

 

「俺がまともな戦力を指揮するのは、指揮官を始めてこれが初めてかと思ったんだが・・・。」

 

 鳳花は彼の副官をしている。

 当然、彼の傍にいて部隊の指揮を補佐している立場だ。

 彼の指揮官としての仕事振りも間近で見続けてきた存在だ。

 

「・・・そうですね・・・言われてみれば。」

 

 その彼女にとって今の台詞は重みのある言葉だったに違いない。

 いつもは二線級か余り物で作った寄せ集めの部隊で敵の一線級部隊と殴り合いをしている彼だ。

 真っ当な戦力と言うものを運用した経験は当然無い。

 そんな彼についた二つ名は「土俵際の魔術師」という喜んでいいのか悪いのか解らないものだった。

 当然それにつき合わされていたのは彼女である。

 

「今回は楽ができそうですね。いつもよりは。」

 

 今回も敵は本気で攻め込んでくるので楽な戦いでは当然無いであろう。

 だが、彼女にとって楽な戦いという経験がまるでない。

 いつも崖っぷちか、棺桶に片足を突っ込んでいる状況だった。

 それに比べれば今回は遥に楽な任務である。

 

「姫先生や遥が片っ端から心当たりを頼み込んだらしい。」

 

 12歳そこらで恐るべき人脈と人望がある二人。

 彼女達に関わりある部隊は軒並み戦力を送ってきている。

 その上で面識の無い連中も芋づる式で参加してきている。

 最終的に集結した総戦力は恒星連邦の混成戦闘集団であるRCT規模となった。

 久遠はとりあえず指揮命令系統の確立が最優先課題であるとして再編成作業に取り掛かった。

 この規模の部隊を動かすとなると中途半端な指揮命令系統では大混乱を起こしてしまう。

 久遠も中隊規模の指揮経験しか無く、副官の鳳花も当然ながら同様である。

 仕方が無いので恒星連邦のRCTを手本にして指揮命令系統を確立する他が無い。

 メック1個連隊、戦車1個連隊、歩兵3個連隊、航空2個飛行隊、その他雑多な戦力が1個大隊規模という緊急編成部隊とは思えない規模である。

 これらの戦力を駆使して行わなければならない任務。

 

「燕の巣の防衛」

 

 考えれば考えるほど久遠は正直頭が痛かった。

 こんな作戦を立案した敵とこれをかけて戦うのだ。

 いくら彼が名誉や出世、金に興味が無いとはいえ。

 

『これは如何なものか?』

 

 と、頭を抱え込まざるえない。

 

 それに対抗して戦力を引っかき集めたこちらもこちらである。

 よく考えてみれば、以前にもペンギン事件の際に似たような状況になった記憶を彼は思い出していた。

 あの時は総司令自らが指揮を採るという、これまた異常な状況だった。

 敵もアホだがこちらも常識から考えれば呆れた集団であろう。

 それでも、彼女達にとってはとても大切な事なのだろう。

 なにより争い事を嫌って避けている遥自身が積極的に今回は参戦している。

 それ自体が彼女を良く知る久遠にとって異様な状況ともいえる。

 彼女達のおかげでどこぞの惑星を制圧できるほどの戦力が今、彼の指揮下に集結している。

 つくづく彼女達を本気にさせるとエライコトになるというのが久遠は身を持って知ったのである。

 

 5話に続く

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