「通販生活3027」
リートが撃墜されてから2ヶ月が過ぎようとしていた。
「さてと、ちょっと時間がかかったけれど、君の機体だ。」
司令であるカミオン・ヴァラサムと、妻であるセレスは並んで彼女の前に立っていた。
リートはただ呆然とシートが被せられているメックの前で立ち尽くしている。
シートの切れ目から覗くその姿は、彼女が前に乗っていたワスプとは違っていた。
コバルトブルーに塗られた新品の機体は彼女にとって見覚えのあるもの。
前後に長い胴体、長く細い腕、頑丈そうな脚部、そして大型のジャンプジェット。
似ている機体を挙げるならばドーウェインマルシェの名前が出てくるだろう。
しかしながら、彼女の口から出た名前はそれとは違うものだった。
「・・・えっ?これってブルーヴィクセン!?」
このメックはライラ共和国のドラコ連合との境界線上の一部の星にしか存在しない。
それも、優れた性能ゆえに他国へは輸出されず、生産数の少ない特殊な存在。
性能は折り紙付だけれども恒星連邦では「存在しないはず」の存在。
ライラ共和国内ですら、名前も知れ渡っていないような隠れた存在。
それがなぜか、なんの間違か知らないがリートの目の前に存在した。
「ま、君ならこの機体を問題無く使いこなせるハズだろうからね。」
少し間を置いてから司令は淡々と話を切り出し始めた。
「君の実家から取り寄せるのに時間がかかったけど。満足してくれたかな?」
ライラ共和国に存在する彼女の実家から、彼はコレを取り寄せた。
実家にいる双子の妹に連邦政府との政治的な駆け引きをさせ、王家とのコネも
使いまくって、王家公認の通販という形で手に入れたという代物である。
「これならば機種転換の手間も省けるだろ?」
彼女のヴィンセント家は、ドラコ連合境界線上に存在する惑星「レイライン」を
統治するレイゼンベルグ家の分家であり、この機体の設計した家系でもある。
そして、ヴァラサム家はレイゼンベルク家と先祖が同じで、いまだに友好関係に
あるためか秘蔵の機体を直輸入できたという裏事情も関係している。
リートもその辺の関係は把握していたのだが、その証が今、目の前にある。
「あ、あの〜、なんだか大変ご迷惑をおかけしているような?」
恐縮しているリートに対し、夫婦はお互いに顔を見合わせて笑いあう。
「あのねリートちゃん、これは遥を護ってくれたお礼の意味もあるのよ。」
セレスは、数ある機体の中からリートにこの機体を選んでいた。
マスターテックの彼女がリートのためだけに選び抜いた機体。
彼女の愛する娘を護った者に対する感謝の気持ちは半端じゃなかった。
「だから受け取って、私達の、いえ、みんなからの感謝の想いを。」
例の一件をどこから聞きつけたのかは知らないが、部隊の仲間が次々と
彼女へのカンパと称して山のように様々な物を置いていった。
それを売却したお金や遥のお小遣い等が、この機体の大部分を構成していた。
一部始終をセレスに聞かされて、照れて顔を真っ赤にして下を向くリート。
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます。」
喜んでもらえたのを確認した司令夫婦がお互いの顔を見合わせて笑いあう。
と、同時に格納庫の至る所に隠れてその様子を見ていた連中も同様の顔をしていた。
この件に関わっていた部隊の連中も、リートの事が気になって覗いていたのだ。
どうやら、彼女はどこに行っても自然と皆に愛される存在のようである。