「馬鹿は死んでも追跡者」

 

 あの後、リートは見事に宿敵を倒して仲間達の下へ無事に帰還した。

 確実に操縦席のある頭を叩き壊したのを彼女は確認していた。

 だが、中身が肩のアンテナに引っ掛かっていたのに気がつけなかった。

 結果として、彼女は嬉しくない戦利品を持ち帰る事となってしまった。

 それが、彼女にとっての新たな頭痛の種の元になる事は明白だった。

 

 

「私にその気はありません。もういい加減諦めてください。」

 

 今日も基地内を逃げ回っているのはリート・ヴィンセント。

 大きな尻尾をパタパタとなびかせながら基地内を逃げまわる羽目になっている。

 

「待ってくれ俺の愛を受け取ってくれえぇええええええ!!」

 

 彼女が拾ってしまったリビングデッド状態の生ものはしぶとく復活していた。

 彼女が辟易していた外道な性格はサッパリと消えてなくなっていた。

 それは、記憶というパンドラの箱がスッカリと空になってしまったせいである。

 頭の打ち所が非常に悪かったらしく、脳がかなりイカレてしまったらしい。

 ある意味、彼女が望んでいたとおりに死に、そして生まれ変わって来たとも言える。

 こうなれば毒を喰らわば皿までと、こいつの性根を叩き直そうとしたリートは

一目惚れされてしまい、今日も花束とプレゼントを抱えて執拗に追いまわされていた。

 戦場の追跡者は生まれ変わったら、今度は愛の追跡者になってしまったのだ。

 こういう話が苦手なリートにとっては甚だ迷惑な事この上ない状況である。

 

 

「ねえ神威、リートさんも毎日追い回されてて本当に大変だよね?」

 

 あっけらかんと、そんな様子を見送るのは司令の義理の妹である天野姫花12歳。

姫という愛称で呼ばれ、後方集団の教官と小隊長を務めている撃墜王の一人である。

 

「・・・拾ってきた奴の自業自得だ。俺は知らん、興味も無い、知りたくも無い。」

 

 彼女の腕の中に抱えられているのは規格外の不思議メックである「神威」のコアである。

専用の機体と接続すれば自律戦闘も可能だが、口も性格も悪く、命令も受け付けない問題児。

暴走も数多く起こし、失敗作として長い間厳重に封印されていたという曰くつきの代物。

星間連盟絶頂期の高度な技術の無駄遣いをしたとも言える迷作劇場の一つである。

ただ一人、彼がパートナーとして選んだ彼女だけがその力を思う存分行使できる。

彼と組んでいるせいで、撃墜数だけならば彼女が部隊で一番と言えた。

本気で彼と彼女を怒らせるとぺんぺん草も残らないほどの惨状となるのはご愛嬌。

もっとも、彼に乗らなくても腕と運が規格外なので敵からはえらく嫌がられていた。

 

「そういえば、瑠璃お姉ちゃんには予知能力があるのかな?」

 

 姫は義理の姉が楽しそうに次の入隊者の予想をしていた事を思い出していた。

 瑠璃の予想は、先程横を通り過ぎていった困った人の特徴に良く似ていた。

 

「・・・あいつは黒い、底が知れないからありえない話でもない。」

 

 瑠璃は物腰一見柔らかいが、その頭脳や影響力といった力は恐るべきものがある。

 メカのクセにやたら人間臭く、第六感まで使いこなす「メカの人」はそう回答した。

 

「う〜ん。確かにお姉ちゃんは髪も目も真っ黒くろだよね?それが予知能力の秘密かな?」

 

 姫は、神威の言葉をトンチンカンな解釈をしてしまい真剣に考え込んでいた。

 

 彼は「血が繋がっていない彼女の兄妹全員の共通点が天然ボケというのは如何なものか?」

と、頭の中で嘆く羽目になったとか、ならんかったとか・・・。

 

 めでたし、めでたくもなし・・・。

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