「ハンターVS子ギツネ」

 

 リートはあの日遭遇したクルーズチェイサーと相対する事となった。

 彼女の所属する小隊が強行偵察任務を終え、戦場を離脱する際に敵と遭遇してしまった。

 哨戒中と思われる敵小隊をリート達は煙幕と機動力を生かして撒こうと試みた。

 主戦級を含む有力な敵ではあったが、大半の機体が追撃に必要な跳躍能力に欠けており、

遮蔽地形を隠れ蓑にすれば難なく離脱が可能であると小隊長は判断したのだ。

 誤算といえば、今もなおしつこく食い下がってくる追跡者が一匹だけいた事。

 2ヶ月前、リートを撃墜したあのクルーズチェイサーである。

 小隊長は判断に少し迷ったが通信回線を開いてリートを呼び出した。

 敵の再度の進撃は目前までに迫っている状況であり、敵に構っている余裕は無い。

しかしながら、一刻も早く迎撃の為に必要な敵の情報を確実に持ち帰るためには、

こちらの動きを逐一報告している追跡者を始末するしかない。

 そうしなければ、別の敵が進路上に先回りして網を張ってしまう。

 誰を追跡者と戦わせるかとなると、小隊長以外ではリートの機体しか該当しない。

 隊長機のカメレオンならば対抗可能なのだが、ワスプやスティンガーでは不可能だ。

 かといって、隊長が小隊から抜けてしまうと緊急時の対処能力が落ちてしまう。

 消去法で出た答えがこれとは皮肉な運命としか言いようが無い。

 仕方なく他の敵小隊機が地形の都合によりすぐに追いつけない頃合を見計らい、

小隊長はリートに追跡者を迎撃するよう指示を出した。

 

 

「了解しました。やってみます。」

 

 返されたリートの声は予想に反して落ち着いていた。

 

「大丈夫ですよ隊長。いつか再戦しようとも思っていましたので。」

 

 迷いも恐れも無く、くるりと踵を返して敵と正対するリートの機体。

 煙の壁が風で消えて行く中、敵地にただ一人踏み止まった。

 

 

「あなたをここから先へ行かせる訳にはいきません。」

 

 クルーズチェイサーの進路を阻むように立ち塞がり、宿敵とリートは対峙した。

 

「ほう、あの時のワスプのメック乗りが生きていたか?」

 

 動きから乗り手が誰なのかを分析していた追跡者は誘いに乗ってきた。

 偵察機を狩る事のみに特化しているクルーズチェイサー。

 幾多の偵察機を追い詰めて撃墜してきた事は想像に難くない。

 

「見た事が無い機体だが・・・ハンターである俺に勝てる訳がないだろう。」

 

 それが自信となり、狩られるだけの獲物に対する余裕として体現されていた。

 逆に言えば、弱い者いじめしか経験が無いチキン野郎とも言えるのだが。

 

「甘く見ていると怪我をしますよ。私はこれでも一応キツネですからね。」

 

 獲物が大人しく狩られるとは限らない事をスッカリ忘れた敵を見据えるリート。

 彼女が乗っている機体は、確かに獲物として狩られてきた偵察機の部類である。

 

「キツネ?子ギツネだろうが何だろうが、どっちにしろ俺の狩りの獲物に変わりは無い。」

 

 あからさまに嘗めまくっている態度にさすがのリートも辟易していた。

 

「別に子ギツネで結構かまいませんよ。期待通りの方で本当に良かったです。」

 

 名実共に子ギツネな彼女は、期待通りの腐れ外道に静かに怒りの炎を燃やしていた。

動けない遥を執拗に狙い続けたこいつを許す気などさらさら無かったのだ。

まあ、自分が撃墜された事が怒りの勘定に入っていないあたりが彼女らしいとも言えた。

 

 

「畜生!こいつ、堅い上に火力もこっちより上だと!?」

 

 敵は戦闘に突入してみて、始めて容易な獲物で無い事に気がついて毒づいた。

 

「今日という日をあなたの命日にしてさしあげます。綺麗サッパリ消えて下さい。」

 

 普段の彼女からは想像もできない呪いの言葉が口からポンポン飛び出てくる。

 キツネも自然界では優れたハンターの一人である事を理解しようともしなかった者の末路。

 チェイサーに対する恨みから生まれた機体の辞書には慈悲という文字は存在しなかった。

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