『見かけで解らん人だらけ』

 

 

「で、案内役のヴァルザード・ウェルスじゃ。」

 

案内役として呼び出されたのは50代を過ぎたぐらいの男の人だった。

デスクワークをしないで現場回りばっかりしている人らしい。

デスクワークのサボリの罰としての案内役のようだが・・・なんか活き活きしている。

それに肩に担いだ荷物も凄く気になるところだ。

 

「大義名分でデスクワークをサボれるから、こういうのは大歓迎じゃがな。」

 

この人はデスクワークをサボれるのが本当に嬉しいらしく始終上機嫌だった。

基地内を案内されているというよりは引っ張りまわされているという状況だ。

私が格納庫に到達するまでかなりの寄り道をする事になったのだが・・・。

その間、着ぐるみが闊歩していたり、メイドさんがお茶を飲んでいたり、犬耳と尻尾が付いた集団が目にとまったりしたが案内役の彼が何食わぬ素振りだったので『ツッコミを入れるに入れられなかった』と、言った方が正しいとも言えるけれど・・・。

 

「で、これがお前さんの機体になるやつじゃな。」

 

長き道のりを経てついに念願の格納庫に辿り着いた私に彼はそれを指差した。

そこには真新しいメックが置かれていた。

パッと見たところではまだ一度も戦闘で使われてなさそうな機体である。

55tの主戦級メックであるブラックハウンド。

自分が持ち込んでいたスクラップ同様のスティンガーとは大違いの代物である。

私は本格的なバトルメックを間近で見る機会にあまり恵まれなかったため、しばらくそれに見とれていた。

 

ははは、ワシも初めてメックを貰った時もそういう風に見とれておったな。」

 

彼はボーっと見上げていた私の様子を苦笑しながら見ていたのである。

私は遅ればせながらそれに気がついて顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「それはそうと、機体受領のための書類を貸してみい。」

 

私が胸に抱え込むようにして大事に持っている書類を手渡すように指示してきた。

今の私にとってそれは死活問題の大切な書類なのだ。

私は彼に渡すのを少し戸惑ってしまった。

 

 

「なに、受領するにはそれを認可する奴のサインが必要なだけの話さ。」

 

ヒョイと彼は私から書類を取り上げた。

私は呆気なく書類を持っていかれて固まってしまった。

 

「ま、機体の方はこれで受領済みって事になるのじゃな。」

 

司令であるカミオンに渡されていた書類に彼がサインを書き込んでゆく。

私はなんで彼がその機体受領のための書類に書き込んでいるのかが理解できなかった。

デスクワークが苦手な彼が大事な書類にいったい何を書き込んでいるのだろうか?

 

「ふむ、サリア・イクサイズか・・・ホイ、これで受領完了じゃ。」

 

固まっている私を無視して彼は書類をヒラヒラと躍らせている。

無反応な私の手にその書類を返して彼は隣のメックの方にスタコラ歩いていった。

我に返って返された書類に何を書き込まれたのか慌てて目を走らせた。

そこに書かれていた文は私の思考を停止させるのに充分だった。

 

 

『狼小隊副指令 ヴァルザード・ウェルス 本機体をサリア・イクサイズに受領させる事に同意する。』

 

!?

 

はい?

 

 副指令?

 

あの人が?

 

振り返ると彼はメックにサッサと乗ってどこかへ行くつもりらしい。

彼のメックはその形から察するにオリオンの改造機らしいのだが・・・。

なんかJJらしきものが背中には見えているし、ヤケに重武装に見えるのは気のせいだろうか?

 

「ワシはサーチ&デストロイツアーに参加してくるのじゃから案内はここまでじゃ。」

 

彼は徹底的にデスクワークをサボるつもりらしい。 

担いでいた荷物はそのための物だったらしくコックピットに放り込まれていく。

っていうか、普通副指令クラスの人間はそんな任務に首を突っ込まないはずだが・・・。

 

「後はお前さんの後ろにいる先生に教えてもらうが良いゾイ。」

 

最後まで言うより早くキャノピーを閉めて彼のメックは出口に向かって直進する。

なんだかそのメックの背中は喜びで満ち溢れているのがよく理解できた。

でも、先生って誰なんだろう。

とりあえず言われたとおり後ろを振り返ってみる。

 

 

・・・。

 

 !?

 

そこには小さな女の子が立っていた。

あの、先生ってもしかしてこの女の子の事ですか?

 

「見た目じゃ人はわからんぞい。頑張れよー。」

 

間違いなく彼はこの子を先生と呼んでいる。

冗談ですよね?

 

「ええと、初めましてサリアさん。私は天野姫花です。よろしくお願いします。」

 

そう言って深々と礼をする女の子。

なにがなんだかサッパリ状況が理解できずに思考が停止してしまった私。

この時はとりあえずこの先生と呼ばれた小さな女の子に挨拶を返すのが精一杯だったのです。

 

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